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第11話(仁side)
「…はるに身請けを断られた…。こればかりは仕方ないことだが、少し落ち込んでしまうな。
まあ、またあそこに行けば会いに行ける。」
明け方、娼館から九条の屋敷に帰ってきてすぐのことである。
落胆しきった主人の言葉に、仁は耳を疑った。
春臣に会うからと最近控えていた煙管をやっつけのように吹かしながら、秋人は遠い目をしている。
あり得ない。なぜならば、春臣が秋人のことを好いているのは、あの感動の再会を果たした夜にはっきりしていたからだ。
「…おそれながら、秋人様の聞き違い、もしくは春臣様の言葉の伝え間違えではないでしょうか…?」
春臣の言葉は、14歳とは思えないほどに拙い。彼と会話を交わすと、まるで5歳にも満たない子供と話しているように錯覚する。だから秋人の勘違いであれば納得がいく。
しかし、仁の言葉を受け秋人は静かに首を振った。
「それはない。はっきりと、無理だと告げられた。」
春臣が秋人を拒む光景など、頭に浮かべることすらできない。仁はなにを返していいのかわからず、口を噤んだ。
「…一緒にいたい、とはるが言ったから、身請けをしたいと言った。しかし泣きながら断られた。
今考えれば、ただの美辞麗句だったのだろう。このまま成長すれば、魔性の男娼になるかもしれない。少なくとも私は本気にしてしまったよ。」
…違う。彼が美辞麗句など言えるはずがない。そしてそんなことは秋人が一番よくわかっているはずだ。
それに、泣きながら、というのが気にかかる。きっと春臣には何か事情があり、そして秋人もそれを感じ取り、春臣の返事を受け止めたのだろう。
ならば自分にできることはまず情報を集めることだと、仁は悟った。
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