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第四話(春臣side)
「おい、はる、起きろ。」
ぶっきらぼうな物言いと、それと反対に優しい手。声とともに春臣の眠る2畳半に入ってきたのは、黒髪がすらりと肩まで伸びた美しい青年である。
「…みーちゃん、ねむい… 」
「うるさい起きな。昨日またうまく口淫できなくて叱られたそうじゃないか。ほら、できるまで朝食はなしだよ。口を開けな。」
春臣の弱音を一掃した彼は、名を充という。3つ上の充は春臣の世話係で、性別は春臣と同じ男のΩだ。
充は春臣の口を開かせると、そこに男性器を模した張型を押し込んだ。
「んっ…み、ちゃん…、んくっ…、くるし… 」
寝起きの乾いた口では、唾液が出にくく余計に苦しい。目で助けを求めたが、充は呆れたようにため息をつく。
「舌も手も使えてないじゃないか。前に教えた通りにやんな。手を使わないから奥まで突っ込まれんだ。」
充は手を止めず、ぐいぐいと押し込んでくる。春臣は必死で張型の根本に手を添える。
「手は唾液で濡らしなっていっただろう。全く、覚えも悪けりゃ色気もない。奥まで入れられなくても目くらいうるませろ。」
必死で格闘すること10分ほど、やっと張型は春臣の口を離れた。
「…そう、そうだ。今度はちゃんと覚えときな。」
食事と掃除洗濯が終わったら今度は接吻の練習だ、と言うと、充は湯を張った桶に手拭いを浸し春臣の顔を拭い、青藤色の着物を春臣に着せた。相変わらず口は悪いが手つきは優しい。
夜になれば春臣はまた、誰かのための人形になる。
いっそ本物の人形であったなら、辛さも苦しさもないのだろうかと、無意味なことを考えるうちに朝食の時間を告げる鐘が鳴った。
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