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「ようこそお越しくださいました、お客様。
はじめての方だね。身分証を見せておくれ。」
中に入ると秋人たちを見て内儀がそう言った。言われた通りに身分証を見せると、内儀の表情が驚きに変わる。
「これはこれは失礼いたしました。九条家の御子息とは。」
「少し楼主と話がしたいんだが。」
「か、かしこまりました。
あんたぁー!!あんたにお客様がお見えだよおーっ!」
秋人の言葉に内儀は一旦不思議そうな顔をしたが、すぐにくるりと後ろを向き、口に手を当てて楼主を呼んだ。遠くから、今行くよ、という声がする。
しばらくすると、楼主息を切らしながらやってきて、内儀は楼主に先ほど秋人が渡した身分証を渡すと、どこかへ行ってしまった。
楼主は秋人の身分証を見て少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻り冷静に秋人たちを見据え、口を開く。
「お待たせいたしました。本日はどのような御用でしょうか。」
普通娼館に来る用事など1つに決まっているが、秋人達の様子を見て違うと判断したのだろう。頭の回る男だ。
「結婚相手を探していてね。話の理解が早い頭の良い子を紹介してほしい。」
「…結婚相手、ですか…。」
「ああ。周りから結婚しろとうるさく言われるのに疲れてね。…難しいか?」
「うちの子を買うとなれば高くつきますよ?」
楼主はそう言って薄笑いを浮かべる。
「構わない。金はある。」
秋人は躊躇なく答えた。この手の人間はいわゆる商売の鬼だ。金さえ払えば淡々と話を進めてくれる。
「ではお部屋でお待ちください。手の空いている者を行かせますので。
…お連れ様は。」
「一緒に連れて行く。」
「こちらの廊下を進んでいただいてつきあたりを右に曲がったところになります。」
楼主が秋人に蓮の花の飾りがついた鍵山の彫られた木札を渡す。それを受け取ると、秋人は仁とともに指定通りの部屋へと向かった。
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