第五話(秋人side)

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しばらくして、内儀に連れられて3人ほどの青年がやってきた。おそらく全員Ωだ。子を孕むことができる、と言うのと社会的地位についての問題で、身体を売る人にはΩ性が多い。 3人のうち2人は女で、何故か足を内股にすり合わせており、すこし不安そうにしている。そしてもう1人の男の方は堂々としており、何故だか苛立っているように見えた。 「あんたたち、順番に挨拶しな。」 内儀がそう言うと、まず朱色の着物を着た女が顔を赤らめながら秋人の方へと歩いてきた。少しでも動いたら触れてしまうのではないかと思うほどに近づき、名前を述べ、優雅に去っていく。 2人目も女で、同じように秋人に近づき、去っていった。 “この3人では難しそうですね”、などと仁が耳打ちしてくる。 しかし、3人目が不機嫌そうに近づいてきたとき、秋人は反射的に彼の手首を掴み、自らの方へと引き寄せた。 「な!?なにするんだ離せ!」 秋人の手を振り払おうと暴れる彼を、力で押さえつけてじっと見据える。 秋人様、と焦ったような仁の声がして、しかしそれでも離す気にはならない。 「君、名前は?」 問いかけると、彼はびくりと肩を震わせ、怯えたように口を開いた。 「…充…。」 そこまで聞いて、手を離す。 怖がらせてしまっただろうか。不機嫌な表情はひどく怯えた表情へと変化し、身体は手を離したあとも震えている。 けれど冷静になる余裕などなかった。ずっと探していた春臣と同じ香りが、微かに充からしたのだ。 充は春臣とは別の人物だ。しかし微かにとはいえ春臣の香りを間違えるはずがない。なら、この子は春臣と繋がっているかもしれない。 「この子を指名する。部屋はここのままでいい。一晩買わせてくれ。」 すこし焦り気味に秋人が告げた言葉に。内儀はうなずき、何も言わずに一式布団を敷く。 女2人は残念そうに部屋を後にし、男は怯えたような顔でその場にとどまった。 仁は空気を読んだように、気づけば姿を消していた。
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