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二人の言葉を聞き、寿史は考え込んでしまった。
昨日までの寿史なら、シゲとレンの言葉に反論したかも知れない。
しかし、先ほどの面談での事を考えると、頷かざるを得ない。
主治医は確かに寿史を見下していた。
今まで、そんな風に扱われた事はなかったのに、急に手のひらを返したような、あの態度。
彼に対しての信頼を失ってしまいそうだ。
でも、何故だろう。
東堂遥を殺害してからというもの、奇妙な事ばかり続く。
そもそも、東堂遥に会った事もない寿史が彼女に恋心など、抱く筈がないのに。
それに、優人が存在しないのに、どうやって東堂遥と繋がったのだろう。
……もしかして、今のこの状態こそが夢なのか?
そこまで考えて、寿史は急に馬鹿馬鹿しくなった。
東堂遥の顎を殴った拳の衝撃が、腹を蹴りつけた脚の振動が、今もこの身体に残っている。
こんなリアルな感覚が夢なものか。
「そうだ、しっかりしろ」
寿史は自分に言い聞かせるように呟いた。
このおかしな状況にはきっとカラクリがある。
誰かが陰で糸を引いているのだ。
首謀者は主治医なのか。
それとも、彼はただの協力者で他に黒幕が居るのか。
だとすれば、NPOのスタッフの線が濃厚だ。
他人の顔を覚えるのが極端に苦手な寿史だが、NPOで出会った面々を思い出そうと躍起になっていると、外から「面会だぞ」と声が掛かった。
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