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あくる日から、本格的な取り調べが始まった。 寿史の場合、罪を認めている事と、目撃者が多数居る事から、事件そのものへの言及はない。 動機や背景が論点となる。 最初は訊く耳を持たなかった警察官だったが、寿史の実直な性格が分かってきたのか、一応は話を聞いてくれるようになった。 その上で、話題に挙がったのが、寿史の身上だ。 寿史の記憶と書類の相違点を確認するため、話を聞きたいと言う。 真実を知りたいのは寿史も同じ。 「俺は元々、父母と優人の四人で暮らしていたんです」 そんな言葉と共に話し始めた。 父は会社員、母は歯科衛生士。 絵に描いたような幸せな家庭だった。 共働きのため、時々寂しい思いはしたものの、両親は子供達に惜しみない愛情を注いでくれ、寿史が孤独を感じる事はなかった。 所が、寿史が中学生になったばかりの頃、父母が揃って事故で他界。 残された寿史と優人は母方の祖母と共に暮らす事になる。 その祖母も寿史が大学四年の時に病死。 以降、祖母が残してくれた家で、優人との二人暮らしが始まった。
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