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「両親や祖母が残してくれた遺産があったから、金に困る事はなかったんです。 ただ、俺がね。就職しても仕事が続かなくて」 そう。 元々人間関係を築くのが苦手だった寿史は大学卒業後、就職した先々でトラブルを起こした。 長くても一年、酷い時には一ヶ月もしない内に職場で爪弾きに遭い、退職を余儀なくされる。 寿史は途方に暮れていた。 職務能力に問題はない。 でも、誰も自分を必要としてくれない。 もう働く事も人と交わる事も嫌になっていた寿史だったが、優人に励まされ、生き辛さを感じる人向けのセッションに参加した。 そこで、知り合ったカウンセラーと話す内に、人間関係で失敗を繰り返す原因は発達障害にある事が分かったのだ。 『貴方は十分に努力を重ねてきた。 ただ、脳の偏りの所為で、出来る事と出来ない事の落差が激しいの。 でも、卑下しないで。 得意な事を活かせる仕事に就けば、必ず輝けるわ』 今でも忘れられない。 手をしっかりと握りしめられ、真っ直ぐ目を見て断言してくれたカウンセラーの言葉。 その一言が寿史に勇気を与えてくれた。 カウンセラーの勧めに従い、発達障害者向けの就労支援施設に通い、直ぐに新しい仕事も見つかった。 新しい職場の上司は寿史の特性を理解した上で、最適な仕事を指示してくれる。 寿史は幸せだった。 優人が変な女に引っ掛かって、大学を退学してしまったのは残念だったが、それでもなお、兄弟二人、助け合って生きてきた。 それなのに。
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