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翌日、約束の時間に寸分狂わずに弁護士は来た。 相変わらずパリッとしたダークグレーのスーツを着て、真っ白なワイシャツにシックなボルドーのネクタイを締めているが、顔に覇気がない。 にも関わらず、寿史と目が合うと、笑顔を作るのは職業病か。 ただ、透明なアクリル板越しにも、やつれた顔は隠せていない。 「辛い事はない? 何か変わった事はあった?」 疲労の交じる声を気の毒に思う。 寿史は愛想笑いをしながら答えた。柄にも無いが。 「俺の方はそれ程。それより大丈夫ですか? 物凄くしんどそうに見えますけど」 寿史が首を傾けると、弁護士が軽く眉をしかめた。 顔に出ているとは思ってもみなかったらしい。 「大丈夫だよ。ただ、色々不可解でね。 兎に角、君の話は事実と違い過ぎる」 弁護士は伏せていた瞼を少し引き上げ、寿史と目線を合わせると、軽く肩を竦めた。 「でも何度か話してみて分かったんだ。 君、本当に信じられない位、率直だよね。 嘘をついているようには思えない」 寿史は苦笑した。 それは多分、ADHDの特性だ。 弁護士は気付いていないようだが。 多動性とは少し違うが、寿史は思った事を思ったままに言ってしまう癖がある。 例え、自分にとってマイナスになる事や相手が怒り出すような事でも、言わずには居れないのだ。 勿論、言った後に後悔する。でも、自分では防げない。 今も、その事を言いたくて仕方がないのだが、何とか飲み込んだ。 弁護士はそんな寿史の(さま)にあまり頓着していないようで、会っていない間に受けた取り調べの内容を共有したいと言ってきた。
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