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「被害者は東堂 遥、二十四歳。A大修士課程の才媛にして、大学一年の時にミスキャンパスに選ばれる程の美貌の持ち主だ。
お前は四六時中、彼女に付き纏っていたそうだな。
隠したって無駄だ。裏は取れてる」
取り調べ担当警察官の居丈高な態度に殺意を覚えた寿史だったが、ここは留置場だ。
抵抗せず、ボソボソとした声で答えた。
「何度も言っているが、付き纏いなんてしていない。
ただ、あの女はバケモノだから粛清してやった。
それだけだ」
そっぽを向く寿史に、二人居る警察官の内、若い方がキレた。
バンっと机を叩いて立ち上がると、寿史のシャツの襟元を乱暴に掴んだ。
寿史が抵抗してもお構いなしだ。
グイグイと首を締め上げる。
その様子が目に余ったのか、もう一人の温和そうな年配の警察官が止めに入った。
「やめ給え」
窘められ、若い警察官は忌々しそうに舌打ちした後、低い声で呟いた。
「お前みたいな出来損ないが、何の権利があって、彼女を裁く?
俺が神なら、彼女じゃなくて、真っ先にお前を消す」
甲高いが癇に障る。
両手で顔を挟み込んで、圧死させてやりたい衝動に駆られるが、こんな奴、殺す価値すら無い。
寿史は自分にそう言い聞かせ、目を瞑り、大きく息を吐いてやり過ごした。
そんな寿史の態度に二人の警察官は辟易としたようだ。
「このまま帰れると思うなよ」
そう言い捨て、若い方は取り調べ室を出て行った。
年配の方は諭すように寿史の肩をポンッと叩く。
「今の態度は君にとっても、我々にとっても利がない。
君は勤勉で職場での評価も高い。
悪い事は言わない。素直に罪を認めて再出発に備えてはどうかね?」
自分は復讐の為にあの女を殺しただけであって、あの女の付き纏い行為等は断じて行っていない。
きっと、警察官は、あらゆる汚い手を使ってある事無い事でっち上げ、罪を重くする積もりなのだろう。
そんなものに丸め込まれて溜まるか。
黙ったままそっぽを向くと、年配の警察官は困ったように眉を下げた。
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