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弁護士はカバンから小さな黒い水筒を取り出し、「失礼」と口を付けた。
ごくりごくりと二回、喉仏が動く。
口を離し、蓋を閉めると、手にしていた水筒を脇に置き、「どこから話したら良いかな」と呟いた。
「最初から全部話して下さい」と言う寿史に弁護士は重々しく頷いた。
「君は子供の頃、足立区の公団で両親と三人で暮らしていたんだ」
寿史の父親は元々、近くの町工場で働いていた。
ところが、寿史が小学生の頃、就業中に機械の操作を誤って、左腕の肘から下を失ってしまったらしい。
喧嘩っ早く、周りとのトラブルが絶えなかった父親はそのまま解雇となり、その後、定職に就く事はなかった。
結局は昼のパートに加えて、夜は近所のスナックで働くようになった母親が家計を支える事となる。
とは言え、その程度の収入で家族三人、まともに生活出来る訳がない。
母親はその内、スナックの客を相手に売春まがいの事をして、何とか金を作るようになった。
しかし、それを食い潰すように、父親は酒を飲み、賭け事に興じる。
二人の関係が冷めていったのは自明だろう。
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