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「話を戻そう。 お父さんとお母さんが不仲になった所までは話したよね。 とにかく険悪だった。 そして、そんな険悪な空気の中で事件は起こったんだ」 「事件?」 訊き返す寿史に弁護士は頷いた。 「その日もお父さんとお母さんは口論になっていた。 激昂したお父さんは、台所に立っていたお母さんの胸ぐらを掴み、顔を殴りつけたんだ。 顎の骨を折ったお母さんは、今でも顔面が不自然に歪んでいる。 実際にお会いして、あまりの痛々しさに目を反らしたよ」 実際に会った。 弁護士は確かに今、そう言った。 という事は、死んだと思い込んでいた母はまだ生きているという事だ。 「母は! 母は今、何処にいるんですか?」 アクリル板に顔を押し当てる程に興奮する寿史に弁護士は冷静な声で答えた。 「府中刑務所だよ」 「刑務所だって!?」
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