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声を荒げる寿史に弁護士は気の毒そうに頷いた。
「そう。刑務所だ。
実は君のお父さんは亡くなっているが、お母さんはご存命だ。
お父さんはお母さんに殺されたんだ」
驚きのあまり声が出ない寿史を気遣うような目で弁護士は続ける。
「あの日、顎を殴られたお母さんは、日頃の恨みも重なって、お父さんに強い殺意を抱いた。
それで、たまたま手にしていた文化包丁でお父さんの脇腹を刺したそうだ。
当時、八歳だった君もその場に居たと、当時の警察の調書には書いてあった」
一瞬、寿史の脳裏に浮かんだのは、腹から流れる血を手で押さえ、苦しそうに呻き、脂汗を流す中年男性の姿だった。
その横で包丁を持って呆然と立ち尽くす中年女性も。
現実なのか、妄想なのか。判別付かない。
ただ普通、大の男が文化包丁で腹を刺されたくらいで死ぬとは思えない。
寿史の疑問は弁護士も心得ているらしく、言い添えた。
「刺した後、お母さんはうずくまっているお父さんの頭を醤油の一升瓶で殴りつけたんだ。
それで完全にスイッチが入ったんだろうね。
お母さんはお父さんを執拗に殴り続け、ついにはお父さんを撲殺してしまった」
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