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俄かに信じられない話が続き、寿史の思考は霧散した。
上手く息が出来なくて、過呼吸のように喘ぐ。
記憶の中の両親は常に穏やかな笑みを浮かべていた。
忙しい中でも、自分と優人に目一杯の愛情を注いでくれた父と母。
いつだって優しかった。
そんな木漏れ日のようなパステルカラーの記憶が、暗くどす黒い不透明な赤で塗り潰されていく。
「嘘だ」
寿史は無意識のうちに、頭を掻き毟っていた。
静かな面会室にバリバリと乾いた音が響く。
弁護士が申し訳なさそうに声を上げた。
「辛いだろうね。でも、残念ながら嘘じゃない。これが真実なんだ」
その言葉に寿史は手を止めた。
そして、今まで頭を掻き毟っていた、自分の爪を見た。
爪と指の間に、血やフケが付着している。
それが惨めで汚らしくて。
見ている内に、目から熱いものが零れ落ちた。
全部を無くしてしまいたくて、寿史は爪に噛り付いた。
流れ落ちる涙を拭う事すらせず、塩っぱいような酸っぱいような味のする爪を噛み切り、吐き捨てる。
弁護士に体裁を取り繕う余裕など、寿史は持ち合わせていなかった。
ただ夢中で爪を噛み続けた。
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