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そこで、弁護士は口を閉ざした。 何かを逡巡しているようだったが、暫くの沈黙の後、意を決したように寿史を見据える。 軽く息を整えた、その口から出た言葉は、寿史にとって予想だにしない事だった。 「ADHDは脳の発達障害で、短期の記憶が苦手とか、感情のコントロールが上手く出来ずに多動に走る傾向はあるが、夢遊病や妄想癖の症例は報告されていない。 しかもだ。君は確かに変わっているし、思っている事が顔や言葉に出過ぎるきらいが有るが、精神を病んでいるようには見えない。 という事は、君の記憶は何か外的要因ですり替えられたのではないかと思うんだ」 あまりもの突拍子もない仮説。 目を丸くする寿史を前に、弁護士は困ったように頭を掻いた。 「我ながら可笑しな考えだとは思う。 でも、そうとしか思えない。 そして、もし仮にそれが真実だとすれば、遥を殺したのは君じゃない。 君を道具として利用した奴だ。 とにかく、君がここに抑留されている間に、真実を(つまび)らかにする必要がある。 確か、君は施設に通い始めてから、勤務医処方の決まった薬を飲み続けていたんだよね。 その辺りの件も詳しく知りたいし、近い内にその先生に会ってみようと思うんだ」 それだけ言うと、弁護士は帰り支度を始めた。 「随分と長い時間、面会したね。君も疲れただろう。 ゆっくり休んで。僕も今日は帰ったら眠る事にする。 明日の昼頃、また来るよ」 そのまま部屋を出て行った。
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