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あくる日、昼を過ぎても、弁護士は現れなかった。 代わりにその日の夕方、呼ばれて面会室に行くと、アクリル板の向こうに見知らぬ年配の男が座っていた。 痩せて小柄だが、背筋が異常に伸びていて、妙な威圧感がある。シワ一つ無い黒のスーツに銀縁メガネ。 硬そうな白髪の髪はハードワックスで無理矢理まとめていて、何とか七三分けの体を保っている。 ただ、指でトントンと机を叩き続ける様が、寿史の目には余裕のない人柄を体現しているように映った。 男は忙しない口調で、前触れもなく切り出した。 「今日から君の弁護を担当する事になった田村だ。 今までの経緯は、前任の椎名くんが纏めた記録、警察からの情報で大体のことは掴めている。安心して貰いたい」 寝耳に水とは当に、この事だ。 昨日の話で、やっとあの弁護士を信じる気になっていたのに。 「どういう事だ。俺はそんな話、全く聞いていない」 すると田村と名乗った弁護士は口元を歪め、馬鹿にしたように言った。 「そうだろう。今、初めて話すのだから」 いや、口だけではない。 寿史を見下しているのが、表情のそこかしこから感じ取れる。 「弁護の担当を前任に戻してくれ」 殺人を犯したとは言え、侮蔑は受けたくないし、受ける(いわ)れもない。 少なくとも、前任の弁護士が寿史を下に見ることはなかった。 田村弁護士は寿史が反発する理由が分からないようで、不思議そうにまばたきを二回繰り返した。 「君がそれほどまでに椎名くんを信頼していたとは意外だ。 ただ、申し訳ないが、彼は今後、君の弁護を担当する事が出来なくなった」 「何故?」 畳み掛けるように訊く寿史をいなすように、田村弁護士は軽く咳払いをした。 「椎名くんは昨日、ここからの帰り道、車に()ねられた。 意識不明の重体だそうだ。 警察は今、事件と事故との両面から調べている」 「事件?」 「弁護士というのは、恨みを買う事も多い職業でね。 まあ、念の為という所だろう」 驚く寿史が想定内だったらしい。 田村弁護士は面倒臭そうに頷いた。 「とにかく」と、話を打ち切りたそうな、せっかちな口調で言葉を続ける。 「今後の君の弁護は、一切合切私が担当する。 君は重犯罪を犯したが、心神喪失者と見なされる可能性が高い。 恐らく起訴すらされずに、そのまま入院する事になるだろう。 まあ、私に任せてくれ給え」
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