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田村弁護士の言葉にあっさり頷く訳にはいかない。
東堂遥の粛清は、寿史なりに覚悟を決めての事だったのだから。
「俺は俺の行動に責任を持ちたいと思っているし、相応の刑罰を受けて然るべきと考えている」
故に妙な詭弁は不要だ、と続けようとしたのに。
きっぱりとした口調の田村弁護士に遮られた。
「下らない事を考えるな。
君は君の役割を全うすれば十分。それ以外は何もしなくていい。
私の力で何としてでも不起訴を勝ち取る」
「俺の役割とは、一体何だ?」
首を捻りながら尋ねると、田村弁護士は苦々しい顔をした。
そこを言及されるとは思ってもみなかったらしい。
少し考えた後、面倒臭そうな顔で寿史を見た。
「君の持つ有用な特性を社会に還元する事だ。
それ以上でもそれ以下でもない」
「有用な特性って?」
畳み掛ける寿史が面倒になったのだろう。
「知らなくてもいい。
君はただ、無為に生きてるだけで社会に貢献しているんだ。
誰もが出来る事じゃない。
君だからこそ、出来るんだ」
適当にはぐらかされた事はわかったが、それ以上、言及する気も起こらない。
黙っていると、田村弁護士はジャケットの内ポケットから手帳を取り出した。
栞紐のページを読み返し、軽く頷く。
「私の話は以上だ。
この後、君には簡易鑑定を受けてもらう。担当は以前から君を診ている主治医の先生だから安心だろう。
事情は先生もご存知だ。
恐らく、君には責任能力に問題があるとの診断が下るだろう。
その後、鑑定入院命令がくる筈だ」
それだけ言うと、足早に部屋を出て行った。
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