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田村弁護士が退出した三十分後、寿史の目の前には主治医が居た。 天然パーマの白髪、もじゃもじゃの顎鬚、丸い顔をしわくちゃにして微笑む彼に気持ちが緩む。 「先生、会いたかったです」 手錠を着けた状態だが、目の前の主治医の手を握りしめた。 心から再会を喜ぶ寿史に呼応するように、主治医も膨々(ふくふく)とした手でしっかりと寿史の手を握り返してくる。 「僕もだよ。今日は一応、君の責任能力を判断するという重大任務を請け負って来たんだけど。 まあ、気にしないで普段通りのお喋りをしよう。 どう? 変わりはない? 取り調べで酷い事を言われてないかい?」 優しい言葉に涙が出そうになった。 「いえ。色々な事があって困惑はしていますが、大丈夫です」 鼻をぐずつかせていると、主治医はポケットからハンカチを出して、寿史の目頭をそっと押さえてくれた。 「我慢しなくても良いんだよ。 辛い事があったのかい? 時間はゆっくりあるから。 君の思う事、全て話してくれ」 「は……い」 すんっと鼻を啜って答えると、主治医が笑いながら寿史の顔を覗き込んだ。 「一旦、気持ちを少し安定させようか。 腕を借りるよ。 いつもの注射をしよう。 薬が効いて、気持ちがリラックスした方が話しやすいだろうし」 主治医は寿史の左腕を取り、アルコール綿で軽く拭いた後、肘の内側に注射針を刺した。
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