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結局、主治医との話し合いは深夜に及んだ。
夕飯も食べていない。
通常の面会時間は十七時までなので、余程の特例なのだろう。
部屋に戻った頃には消灯時間が過ぎていて、押入れに鍵が掛かっていた。
仕方がないので、布団を敷かず、床に直接寝転がる。
晩秋の夜、空調の入っていないコンクリート造りの建物は冷え冷えしていて、ゆっくりとゆっくりと体温を奪っていく。
寿史はカブトムシの幼虫のように身体を縮こませ、両肩を抱くようにして何とか眠りについた。
所が次の朝、何故か寿史は布団の中で目を覚ました。
歯磨きをしながら首をひねっていると、横からシゲが脇腹を小突いてくる。
「何ですか」
いなそうとすると、シゲが不服そうな声を上げた。
「何ですかとはご挨拶だな!
オメェが晩飯前に寝ちまうからよ。
昨日は俺とレンとで布団を敷いて寝かせてやったんだぞ。
感謝しろよ」
その言葉を聞き、瞬時に感じたのは戸惑いだった。
でも次の瞬間、『また、だ』と思った。
記憶と事実との相違。
晩飯の頃は主治医と面談していたし、部屋に戻った覚えもない。
何故だ。
何故、そんな事が起きる。
眉を寄せる寿史の背中をレンがバシッと叩いた。
「寿史さん、痩せてるけど背が高いから、重くて。
寝かせるの、大変だったんですよ」
「俺、晩飯前に寝てた?」
何気なく訊いた積もりだったのに、切羽詰まった心情が漏れ出ていたようだ。
シゲとレンは顔を見合わせ、揃って不思議そうに頷いた。
「何だよ、覚えてねぇのかよ!
昨日、面会だって呼ばれて夕方に出て行ったろ?
一時間程して帰ってきたんだけど。
お前、スゲェ眠そうで、晩飯食わねぇで寝てるから。
消灯時間になった時に、俺とレンとで布団を敷いてやったんだぜ」
シゲの声はひどく遠くて、現実味が無いように寿史は思った。
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