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「でもよぅ」
まだ何か言いたそうなシゲの腕にレンの手が伸びる。
腕を掴んだまま、レンはシゲに向かって頷くと、寿史に視線を移した。
「寿史さん、ソイツを信じたい気持ちは分かる。
でも、とにかく昨日の面会の後、寿史さんの記憶がすり替わったのは事実だ。
そこは忘れないようにしないと。
それに、自分以外の人間なんて、信じられるもんか。
どんなに綺麗事を言ったって、目の前に札束を積まれると、人は変わっちまうんだから」
小さい子供を諭すような口調のレンの言葉に、寿史は頷く事しか出来なかった。
普段なら、強姦魔の言う事など、鼻にも掛けない。
ただ、この時はレンの言う通りだと思った。
利益のある方に動くのは人間の性だから。
そして、心を扱うプロである主治医が、自分のようなコミュニケーションに問題のある人間を丸め込むなど、造作もない事だろう。
何より、レンの真剣な眼差しには、寿史を心配する気持ちが溢れている。
素直に有り難いと思った。
寿史が「分かった」と呟くと、レンは少しだけ目尻と頬を緩めた。
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