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それにしても。
主治医は何故、寿史の記憶をすり替えようとしたのだろう。
東堂遥殺害は主治医の策略なのだろうか?
そもそも何故、そんな事をする必要がある?
よく分からない。
ただ、あれ程明確にすり替わったのだ。
彼がこの件に関与していることは、ほぼ間違いないと見て良いと思う。
寧ろ、寿史に対して、意図的に忠告しているようにすら感じる。
寿史は頭の後ろに手を組み、寝転がった。
そしてもう一度、昨日の事を最初から思い出してみる。
あの時、主治医は「いつもの注射をしよう」と寿史の腕に注射針を刺した。
普段なら、注射を打たれて数分で頭がぼんやりとしてきて、白金のベールのような柔らかい光に包まれたイメージと共に、穏やかな眠りが訪れるのだが、昨日は全く眠くならなかった。
寧ろ、いつも霞が掛かったようになっている脳が妙にクリアに冴え渡っていたのを覚えている。
その後、長時間に渡る面会と知能テストのような物を受けて、部屋に戻るように言われた。
ただ、あの時、何を話していたか、どんなテストを受けていたのか、全く思い出せない。
思い出そうとすると、深い靄の中を彷徨っているように思考が迷子になる。
まるで、その時間の記憶だけ、霧に包まれた樹海の奥に隠されてしまったようだ。
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