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いや、あれ? 寝転んだまま、寿史は目を見開いた。 違う。 昨日の事だけではない。 逮捕される以前の記憶の殆どがすっぽりと抜け落ちている。 優人と事件に関する事は仔細に覚えているが、他の記憶が殆どない。 出来事を断片的に覚えているものの、少しでも深掘りしようとすると、濃い靄のような物に思考を遮られてしまう。 例えば、寿史が大学に合格した日、優人と祖母が二人でお祝いしてくれた。 それは覚えている。 でも、それだけ。 合格発表を見たであろう瞬間や、それまで経過した時間、次の日以降、大学に入学するまでの期間、その全てにおける記憶がない。 言わば、記憶が点の集合であり、面になっていないのだ。 まるで、古いRPGのようだと寿史は思った。 ゲームに必要の無い部分は存在しない、もしくは隠されているとか。 もう一度、大学に入ったばかりの頃の事を思い出そうとして、代わりにため息が出た。 不毛な記憶の点検に疲れ、寿史は横になったまま目を閉じた。
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