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明くる日、主治医はあっさりと記憶のすり替えの事実を認めた。
「何故そんな事を?」
と身を乗り出す寿史に、主治医は困ったように微笑んだ。
「何故って?
簡単な事だよ。君と私との利害が一致するからだ」
意外な言葉に寿史が首を傾げると、主治医が口を開いた。
「考えてもみてごらん、寿史くん。君は既に、あの男から事実を聞き及んでいるんだろう?」
「あの男?」
「東堂遥の恋人の弁護士さ」
ほんの一瞬、主治医はいつもの温厚な顔を歪ませ、鋭い目で寿史を見据えた。その目線にたじろぎつつも、「何の」と訊くと、主治医は小さくため息を吐いた後、いつもと同じ、目を糸のように細めて微笑んだ。
「君の生い立ちだよ」
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