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「記憶をすり替える事自体は犯罪ではないのですか?」 すると、主治医は曖昧に笑った。 「犯罪ではないよ。心理療法としてよくある治療だ。 君に毎回打っていた薬も、一般的な精神安定剤だしね。 犯罪に繋がるとすれば、過失で東堂遥を死なせてしまった事だけだ」 「先生は椎名弁護士の事故には加担していないんですよね?」 畳み掛けるように尋ねると、主治医は首を傾げた。 「椎名弁護士? ああ、そう言えば、数日前、事故に遭っていたね。 君の担当弁護士だから、スポーツ新聞が面白おかしく書き立ててたよ。 彼の事故に何故、私が加担していると思ったんだい?」 「いえ、あの……」 言い淀む寿史を一瞥し、主治医は席を立った。 「寿史くん。率直なのは結構だが、証拠もないのに、闇雲に人を疑ってはいけない。 君のそういう所、私は嫌いではないが、時として自分に刃として向かってくるよ。 気をつけた方がいい」 背を向ける主治医に、寿史は後ろから声を掛けた。 「待ってください。最後にもう一つだけ。 俺の利は適応障害の完治という事で承諾出来ないものの、話は分かりました。それでは先生にとっての利、俺の記憶をすり替える事で得られるメリットは何なんですか?」 すると主治医は肩をすくめて振り向いた。 「何って。そんな事、決まっているじゃないか。 適応障害を克服した君が社会復帰する姿を見る事だよ。 医者として、当然のことだ」 それだけ言うと、主治医は部屋を出て行った。
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