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DDって何だろうと思った所で、激しく身体を揺さぶられ、濁声で起こされた。
「寿史!」
「んんっ」
「オメェ、寝過ぎだ」
頰をペチペチと叩かれ、目を開けると、すぐ目の前にシゲの顔が有った。
パーソナルスペースなんて洒落た配慮、シゲには皆無なのだろう。
ブスっとしながら寝ぼけまなこで辺りを見渡すと、レンが熱心にノートに何やら書いていた。
シゲの方は、感動物の長編漫画を読んでいたらしい。
愛人の一人が差し入れてくれたもので、シゲのお気に入りなのだ。
漫画を持ったまま、目に涙を溜めている。
それにしても。
今さっきまで、夢の中で聞いていた会話が、妙にリアルに頭に残っている。
さっぱり意味は分からなかったが、あれは一体何だったんだろう。
会話の内容を反芻していると、うるうる目のシゲが話し掛けてきた。
「寿史、やっぱり最後に勝つのは真心だな。俺は今まで間違ってた。
シャバに出たら、悦子の奴を、今度こそ大切にしようと思うんだ」
おっさんの潤んだ瞳なんて、気持ち悪くて見てられない。
それに、殊勝なことを言っているようだが、漫画を差し入れたのは悦子じゃなくて、美智子だ。
ちなみに、今、シゲが着ているスエットを差し入れたのは佳子だったりする。
シゲには是非、言葉通り、誠実の愛に目覚めて欲しいものである。
そんなことを考えていたら、シゲの方はシゲの方で、視線に混じる憐憫に気づいたらしい。
面白くなさそうに鼻を鳴らした。
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