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弁護士と入れ替わりに入ってきたのは、寿史の主治医だった。 施設の専属医で、専門は心療内科。 白髪の天然パーマで顎髭、顔も身体も丸くて大きい。 更に丸いフレームのメガネの奥の糸目の際には絶えず笑いジワが出来ていて、人柄の良さは施設長の折り紙付きだ。 施設に通い始めて以降、寿史は彼の処方した薬を飲み続けている。 ここに来て初めて既知の、しかも信頼している主治医に会えてホッとした。 しかも特別な許可を得ているとの事で、アクリル板越しではなく、直ぐ側に居る。 「寿史くん。僕が分かるかね」 「ええ」 主治医は寿史に向かって「結構」と満足げに頷いた。 「今回は大変だったね」 事件後、始めての優しい言葉と温かい眼差しに目頭が潤む。 「仕方がありません。バケモノを屠れて、僕としては満足です」 嗚咽を上げそうになる自分を律し、何とか答えると、主治医は困ったように眉を下げた。 「そうは言っても、元々精神的に脆い君だ。 今回の件で相当神経をすり減らしている事だろう。 いつもの薬と一緒に精神安定の薬を持ってきた。 少しチクッとするがよく眠れるから。 腕を出して」 言われるがままに、手錠のついた腕を差し出すと、主治医は慣れた手付きで寿史の左腕に注射針を刺した。 「三十分もすると眠気が訪れる。 許可を取ってあるから、ゆっくりと休むがいい」 寿史が頷くと、主治医はニコッと微笑んだ。
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