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「凛太郎、ありがとね。やっぱり完璧。さすが」
演奏終了後、女性がマイクを持ったまま凛太郎に駆け寄っていった。なんで声が聞こえたのかっていうと、マイクを通していたから。
「いや、俺らも頑張ったでしょ。留依さんはほんと、凛太郎贔屓なんだから」
ドラムを叩いていた大柄な男の子がそう言うと、周りにいた人たちが「しょうがねーだろ、イケメンは得すんだよ」と笑った。おそらく前のほうにいるのは、ほとんど軽音サークルの人たちなのだろう。
凛太郎と「留依さん」が並んでいるのを見ると、胸がズキズキと痛んだ。あの人、さゆよりもちっちゃい。凛太郎と30センチくらい身長差があるんじゃない?小柄だからか、抱えている黒っぽい色のギターが大きく見えて、それが彼女の可愛らしさを際立たせているように思える。
──なによ、ヘラヘラ笑っちゃって。わたしと一緒にいるときは、いつも仏頂面してるくせに。
わたしは、身振り手振りを交えて楽しそうに話す留依さんに作り笑顔で頷く凛太郎を、じっと睨みつける。凛太郎が気付くはずはない。だって、こんなに遠くから見ているんだもの。
「……お昼ご飯の時間なくなっちゃうから、行こう?」
さゆがわたしの服の裾を掴んで、「ね?」と頼りなげに笑った。ほんとに気がつく優しい子だな、さゆって。わたしがあの二人の姿を見ているのが辛いってこと、バレちゃってるみたいだ。
「うん。今日はお弁当なんだ。さゆは?」
「わたしも。3講目の教室に行って食べよっか」
泣きそうな気持ちになりながらステージに背を向ける。今日履いてる、お気に入りのパンプスのヒールをへし折りたくなった。
わたしだって、あんなふうに、真上を向くように凛太郎を見上げてみたい。ふわふわのワンピースを着てみたい。小さくて可愛らしい、あの人みたいな容姿に生まれたかった。
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