#5 不器用な心***

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わたしのそこは、ずっと熱を帯びて疼いていて──それを凛太郎に知られるのは恥ずかしくてたまらないけれど、彼の手が下半身に触れたとき、きっとこのまま進んじゃうんだ、って覚悟した。それなのに凛太郎は、わたしをベッドに寝かせたまま自分だけ起き上がってしまった。 「りん……たろう?」 「悪かった。その……下着とか、直せよ」 凛太郎がわたしに背中を向けてぼそっと言った。さっきまでとはまるで違う彼の様子に、いったい何をしてしまったのだろう、と不安になる。 「あの……わたし、何かした?」 ゆっくりと起き上がってブラジャーのホックを留め、こちらを向こうとしない凛太郎の腕をそっと掴んだ。何秒か待ってみたけれど返事はない。さっきまでの熱はすっかりどこかに逃げてしまい、背筋がすっと冷たくなった。 「き、期待より……だめ、だった?それとも、変な顔、してたとか?」 つい喉が震えて、情けない声になってしまう。自分で言ってから気付いたけれど──さっきのわたし、絶対に変な顔してた。凛太郎と会う前に直したメイクだって、汗や涙のせいで、今はどんなことになっているのか……想像しただけでも恐ろしい。 「そんなわけ、あるかよ」 凛太郎は身体をほんの少しこちらに向けると、アレ、持ってねえんだよ──と、独りごちるように言った。 「アレ?」 「……だから、ゴム」 凛太郎の口から出たその言葉に、発火してしまうんじゃないかってくらい身体中に熱が巡った。「あ、あの……えっと」とうわ言のように口にしたわたしに、「こんなこと言わせるなよ」と彼がすごい形相で振り向く。その顔は、さっき二人で抱き合っていたときよりも赤い。 「ご、ごめん……」 「こんなふうになると思ってなくて──いや、用意してたら、それはそれでキモいよな。でも……ああ、くそ」 不謹慎かもしれないけれど、苛立ったように髪をがしがしと掻く姿が可愛く見えた。しゅんとうなだれている凛太郎にそっと近づくと、思い切ってその背中に抱きついてみる。
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