#6 プラチナ・チケット

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#6 プラチナ・チケット

「じゃあ、俺、練習あるから」 「うん」 「今日はバイトだけど、明日は……」 「休みなんでしょ?ご飯食べに行こうって話してたじゃん」 後に続く言葉を引き取るように言うと、凛太郎が「ああ」と微かに笑って、わたしの頭を軽く叩いた。 遠ざかっていくその後ろ姿を、ドキドキする気持ちを抑えながら見つめる。いくつものシルバーのリングピアス、さらさらの黒髪、オーバーサイズの白いTシャツにライトブルーのスキニージーンズ。あんなに嫌だったベースを背負っているのだって、最近ではすごくかっこよく見えてしまう。 物心ついたときから、凛太郎よりかっこいい男の子をわたしは知らない。きっと、これからもずっとそうなんだと思う。 6月に入った。あれ以来、凛太郎との間には、前よりも「彼氏と彼女」らしい雰囲気が流れているような気がする。 ──結局、最後(・・)まではしてないけどね。お互いのバイトや凛太郎の軽音サークルのせいでまとまって会える時間がなくて、あれから凛太郎の部屋には行っていない。 次に行ったときは……なんて考えると、緊張で心臓が爆発してしまいそうになる。いつそうなってもいいように新しい下着を買っておかないと、とか、スキンケアもボディケアも怠らないようにしないと、とか──考えることはたくさんある。お腹や背中に肉がついてる、って思われたくなくて、ダイエットも再開した。 「あれ、なんかラブラブな感じ?凛太郎、最近機嫌いいもんなぁ」 背後から特徴的な掠れ声が聞こえて、ゆっくりと振り返る。「どうして(さとる)くんは、いつも背後から話しかけるの」と呆れたように言ってみせると、「だって、後ろ姿を見つけちゃうんだもん。まなちゃんと凛太郎は、後ろから見ても目立つよ」と悟くんが笑った。 「そうそう、ライブのチケット渡そうと思ってたんだ。凛太郎の了解はもらえた?」 悟くんがポケットから財布を出して、ピンク色の名刺サイズの紙を2枚手渡してきた。そういえば、ライブって来週の土曜日だっけ。すっかり忘れてた。 「あれ、まだ言ってない感じ?俺からチケットもらったって言ったら、また拗ねちゃうかもね」 彼は可笑しそうにそう言うと、「じゃあ、またね」と食堂の方に向かって歩いていった。ライブ──行くつもりだってこと、ちゃんと話さないとだめだよね。せっかく関係が前進したのに、また逆戻りなんて、嫌だもの。
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