#6 プラチナ・チケット

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──Side 凛太郎 あれ以来、まなは俺の部屋に来ていない。というか、あの日のことを思い出すと恥ずかしさでのた打ち回りたくなる。あれだけ攻めておいて最後までできなかったというのは、俺にとって、予想以上にダメージがでかかったらしい。 とりあえず、日用品のついでにさりげなくアレを買って、ベッド脇の棚に放り込んでおいたけれど──いつ使うことになるのやら、という感じだ。 思い切って「泊まりに来い」って言ってみるか?それとも、「部屋を片付けに来てほしい」って言って連れ込んでみるか……。中途半端にああなってしまったのは事実で、どう誘ったところで結局は「やろう」と言っているのと同じことなのではないか。 「今日の凛太郎の音、エロいね」 来週のライブで()る曲を一通り合わせ終えたあと、悟が事もなげに言った。どうしてこいつはいつも、爽やかな顔で爆弾みたいなことを言うんだろう。 「そんなことないだろ、普通だよ」 「いや、間違いなくエロい。まなちゃんのことばっかり考えて悶々としてるから、そういう音になるんでしょ」 「なんだよ、凛太郎の彼女の話?留依(るい)ちゃんから聞いたよ。派手な可愛い子だって」 ドラムのヤスさんが大声を張り上げると、悟が苦虫を噛み潰したような表情で、「うわー、始まったよ。留依さんのネガキャン。褒めてるようで貶めてるやつ」と吐き捨てるように言った。 「そうか?メイクが上手で色っぽくて可愛いって言ってたけど」 「ヤスさん、あの人のこと全然わかってないですね。それ、顔作りまくりで遊んでそうって通訳するんですよ」 「前から思ってたけど……悟って、留依さんのことすげえ嫌ってるよな」 俺が口を挟むと、悟が「俺、一番嫌いなんだよね。ああいう女が」と普段からは想像できないような低い声で呟く。──この話題には、これ以上触れないほうがいいかもしれないな。 もう一回合わせて終わりにしませんか、と言おうとしたら、「凛太郎、まなちゃんはライブに来てくれるんだよね?」といつもと同じ明るい声が飛んできた。
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