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──Side 凛太郎
練習が終わってからまなに電話したら、彼女はまだ大学構内にいるようだった。
まなとライブの話をしていたこと、悟に言われるまですっかり忘れていた。俺のせいでケンカになったまま有耶無耶になっていたから、結局、あのときを最後にその話はしていない。
──待てよ。ライブって土曜日だったよな。まなをうちに呼ぶ、いい口実になるんじゃないか?
彼女が待っているという講義棟へ続く渡り廊下で、俺ははたと立ち止まる。
幸い、俺の出番は最後のほうに固まっている。一度ライブが始まってしまったら、ライブハウスは人の出入りが頻繁になる。途中で入ってきてもらえば、あいつの存在だってそんなに目立たないかもしれない。
そもそも俺が何かを言ったところで、あいつが自分の考えを曲げるわけがない。いつもの化粧──パチパチとした目元にプルプルの唇──に、いつもの服装──身体の線が丸分かりのカットソーとか、高いヒール──でやって来るに違いない。でも、ライブハウスでヒールは厳禁だ。それだけは、きつく言っておかないとだめだな。
*
ベンチに座ってスマホをいじっている彼女に、「まな」と声を掛ける。彼女は驚いたように顔を上げて、「なにか用事?朝も会ったのに」と微かに笑った。
──ああ、可愛いな。そうだよな、朝も会ったのに。何度会ってもハッとするくらい可愛いし、気を抜いたらすぐに触れたくなってしまう。悟が俺に言っていたことは、あながち間違っていないのかもしれない。
「ああ。えっと……来週のライブのことなんだけど」
さっきヤスさんから受け取った2枚のチケットをソフトケースから出して、まなに「これ」と差し出す。まさか一人では来ないだろうから、前島と来るのだろうか。でも、前島はライブとか観るタイプじゃないか。
「あ……うん」
「話が途中になってただろ。その……バイトとか用事、入れてなかったら」
素直に「来てほしい」って言えないのかよ、俺は──。目を瞬かせながらこちらを見つめるまなから目を逸らして、俺は半ば押し付けるようにチケットを渡す。
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