#6 プラチナ・チケット

4/6
前へ
/121ページ
次へ
──Side 凛太郎 練習が終わってからまなに電話したら、彼女はまだ大学構内にいるようだった。 まなとライブの話をしていたこと、悟に言われるまですっかり忘れていた。俺のせいでケンカになったまま有耶無耶(うやむや)になっていたから、結局、あのときを最後にその話はしていない。 ──待てよ。ライブって土曜日だったよな。まなをうちに呼ぶ、いい口実になるんじゃないか? 彼女が待っているという講義棟へ続く渡り廊下で、俺ははた(・・)と立ち止まる。 幸い、俺の出番は最後のほうに固まっている。一度ライブが始まってしまったら、ライブハウスは人の出入りが頻繁になる。途中で入ってきてもらえば、あいつの存在だってそんなに目立たないかもしれない。 そもそも俺が何かを言ったところで、あいつが自分の考えを曲げるわけがない。いつもの化粧──パチパチとした目元にプルプルの唇──に、いつもの服装──身体の線が丸分かりのカットソーとか、高いヒール──でやって来るに違いない。でも、ライブハウスでヒールは厳禁だ。それだけは、きつく言っておかないとだめだな。 * ベンチに座ってスマホをいじっている彼女に、「まな」と声を掛ける。彼女は驚いたように顔を上げて、「なにか用事?朝も会ったのに」と微かに笑った。 ──ああ、可愛いな。そうだよな、朝も会ったのに。何度会ってもハッとするくらい可愛いし、気を抜いたらすぐに触れたくなってしまう。悟が俺に言っていたことは、あながち間違っていないのかもしれない。 「ああ。えっと……来週のライブのことなんだけど」 さっきヤスさんから受け取った2枚のチケットをソフトケースから出して、まなに「これ」と差し出す。まさか一人では来ないだろうから、前島(まえじま)と来るのだろうか。でも、前島はライブとか観るタイプじゃないか。 「あ……うん」 「話が途中になってただろ。その……バイトとか用事、入れてなかったら」 素直に「来てほしい」って言えないのかよ、俺は──。目を(しばたた)かせながらこちらを見つめるまなから目を逸らして、俺は半ば押し付けるようにチケットを渡す。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6184人が本棚に入れています
本棚に追加