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#7 B1Fのライブハウスにて
デコルテが綺麗に見えるスクエアネックの黒いトップスに、ライトブルーのスキニーデニム。ヒールは厳禁だと言われたので、持っている中では一番低い3センチヒールのイエローのパンプスを合わせることにした。太めのヒールで安定感もあるし、あれくらいならきっと大丈夫だよね。
髪はゆるく編んでハーフアップにし、結び目のところにゴールドのマジェステをつけた。薄いベージュの小さなショルダーバッグを合わせて……うん。これなら派手に見えない気がする。
部屋の全身鏡の前に立って、
自分を納得させるように頷く。凛太郎のサークル仲間──特に留依さん──がいるんだからと、メイクにはいつもより時間がかかってしまった。
今日のライブは、すすきののライブハウスで行われる。一泊分の荷物がぱんぱんに詰まったバッグは、大通駅のロッカーに預けることにした。
*
大通駅で降りて、すすきのに向かって歩く。蒸し暑い6月の土曜日、17時過ぎのすすきの交差点は、これから飲みに行く人たちでごった返していた。
そのライブハウスは、大きな通りをしばらく行って右の小道に折れたところにあった。雑居ビルの前で、金髪と茶髪の男性と背の低い女性が、タバコを吸いながら談笑している。
「あっ、まなちゃん。来てくれたんだぁ」
わたしが近づくと留依さんがこちらを向いて、タバコを携帯灰皿に擦りつけながら笑った。──タバコ吸うんだ、イメージと全然違うんだけど。そんなわたしの気持ちを読み取ったのか、「たまに吸いたくなるの。ボーカルだから、ほんとはだめなんだけどね」と留依さんが首を傾げる。
「もしかして、噂の凛太郎の彼女?あいつなら中にいるよ。もうそろスタートだから」
金髪の男性がそう言って、地下に続く階段を指さした。こういうところに入るの、初めてだな。凛太郎はもう何度も来たことがあるんだろうか。わたしの知らない世界、わたしの知らない彼がそこにいるような気がして、少し怖くなる。
「はい。ありがとうございます」
──さゆ、一人でここまで来れるかな。心配だから、すすきの駅まで迎えに行こうかな。
階段を下りながらスマホをチェックすると、10分ほど前に、さゆからのメッセージが入っていたことに気づいた。
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