#7 B1Fのライブハウスにて

2/16
前へ
/121ページ
次へ
わたしの後のシフトの人が急遽休んじゃって、チーフに「ラストまでお願い」って頼み込まれたの。21時すぎなら、ライブ、もう終わっちゃってるよね? それがさゆからのメッセージだった。ごめんね、と謝るくまとウサギのスタンプが、3つ連投されている。 ──そういうことなら仕方ないよね。軽音サークルなら知ってる子が何人かいそうだし、適当に捕まえればいっか。 「大丈夫だよ。めっちゃ物騒なところにあるから、そんな遅い時間に来ちゃダメ!バイトがんばってね」──そう返信してスマホをバッグにしまい、狭く薄暗いライブハウスの中をきょろきょろと見回す。 人口密度が高く、空気が澱んでいるように感じる。ステージ上はまだ暗い。見たこともない人たちの賑やかな喧騒。目がちかちか(・・・・)と霞んで見えるのは、あちこちから流れてくるタバコの煙のせいだろうか。 ──凛太郎、どこかな。 背が高いからすぐに見つけられると思ったけれど、ここにはいないのだろうか。そうだ、着いたよってメッセージ送らなくちゃ──そう思い至った矢先、背後から肩をポンと叩かれた。 「軽音の子じゃないよね?友達探してんの?」 振り向くと、そこには知らない男性が二人立っていた。黒縁眼鏡をかけた背の高い人と、緑色のビールの瓶を手にした明るい茶髪の人だ。 「えっと……あの、凛太郎って」 「もしかして凛太郎の彼女?うわ、めっちゃ可愛いじゃん。留依さんの言ってたとおり」 茶髪の人が大きな声で言って、わたしの右腕をぐっと掴んだ。「なんか飲む?」とヘラヘラ笑いかけてきたけれど、怖くてうまく声が出ない。 「おい、びっくりしてるだろ。触るのはまずいって」 「だって、マジで可愛いんだもん。ちょっと触るくらい、別に……」 「せんぱーい、触っちゃだめですって。凛太郎に殺されますよ」 聞いたことのある声がして、わたしの腕を掴んでいたその手がパッと払いのけられる。 「悟、もうすぐ本番だろ。なにやってんだよ」 「先輩たちがナンパしてるのが見えて、つい来ちゃいました」 わたしのすぐ後ろに立っていたのは、怖いくらいに満面の笑みを浮かべた悟くんだった。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6184人が本棚に入れています
本棚に追加