#7 B1Fのライブハウスにて

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──Side 凛太郎 ──いったいなんなんだよ、悟の奴。まなのこと、マジで狙ってるのか? 会場を出ると、先輩方が数人、喫煙スペースにたむろしていた。その中には留依さんも混じっていて、俺の姿を認めるなり「凛太郎も吸う?おいしいよ、これ。バニラ味」と自分の吸っているタバコを口元に近づけてきた。 「俺はいいです。タバコ、好きじゃないんで」 「なぁにそれ、未成年のくせに生意気」 柔らかく微笑む留依さんに、「ライブ始まりましたけど、中入らなくていいんですか」と顔を背けながら言う。「だって悟、わたしのこと大嫌いだもん。だからわたしも嫌い。でも、声と見た目は好き」──不貞腐れたような彼女の声に、他の先輩方が笑いながら頷いた。 「あいつ、ちょっと変わってるもんな。部長がめちゃくちゃ推すから仕方ないけど、1年目がトップバッターって、なあ」 そう言ったのは4年目の先輩だ。悟と同じくボーカルだけど、練習にはほとんど顔を出さず、ライブと飲み会にしか来ないから──実力はまあ、察しの通りだ。 ──悟の歌が上手いのはわかってる。表情が豊かで聴いていて気持ちよくて、とんでもなく魅力的な歌声だってことも。 だからこそ、俺は面白くない。まながあいつの歌声に惹かれていることを知っているから。 まなは俺のことが好きだと言ってくれたし、それを信じている。だけど、他の男のどんな部分にだって惹かれてほしくないし、触れてほしくない。お願いだから、俺のことだけを見ていてほしい。 「凛太郎、まなちゃんを一人にしていいの?誰かに声かけられちゃうんじゃない?」 さっき、わたしの存在なんて忘れてまなちゃんのところに行っちゃったし──留依さんが上目遣いで俺を見上げて、シャツの裾をきゅっと握ってきた。彼女を取り巻くタバコとバニラが混じった香りに、俺は心底うんざりしてしまう。
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