#7 B1Fのライブハウスにて

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悟くんがくれたカシオレを凛太郎が持って行ってしまったので、仕方なく、さっきのカウンターでジンジャーエールをもらった。 それをちびちびと飲みながら、暗転したステージをぼんやり眺める。──どうしてだろう。わたしはいつも、凛太郎を怒らせてばかりだ。 「まなちゃん、途中まで全然聴いてなかったでしょ。前にも言ったけど、最前よりちょい後ろのほうがよく見えるんだって」 いつもは背後からだけど、今回は右横から悟くんが現れた。「聴いてたよ。悟くんの声、どうしたって耳に入るもん」──素っ気なく返したのに、悟くんはなぜか一瞬息を呑んでから、「それ、告白?」とその黒目がちの瞳を丸くする。 「なんでそうなるの」 「ボーカリストにとっては、それ、告白みたいなもんだから」 「えっ、そんなつもりじゃ」 「完全に不意打ちだよ。まなちゃんにそんなこと言ってもらえたら、俺……」 そちらを向いたわたしと目が合ったけれど、すぐにバッと逸らされてしまう。悟くん、もしかして照れてる?こんな反応をされたのは初めてだ。 なにか別の話を振ったほうがいいのかな、と思案していると、「おい」と右肩を強く掴まれた。それが誰なのかは、その低い声とムスクの匂いですぐにわかる。 「凛太郎……」 「ったく、油断も隙もないな。おまえは」 「あれ、もしかして怒ってる?まなちゃんをひとりにするほうが悪いんじゃん」 いつもの様子に戻った悟くんが、おどけたように口を尖らせる。凛太郎は悟くんを一瞥(いちべつ)してため息をつくと、「まな、ちょっと来い」とわたしの手を握って引っ張った。 ステージがまた明るくなる。次のバンドの演奏が始まるようだ。その明るさから逃げるように、凛太郎が早足で入口の方に向かう。 * 入口を出てすぐ左手のスペースで、男性が何人かタバコを吸っていた。凛太郎は右手に折れると、ロッカーがいくつか設置されているわずかなスペースにわたしの身体を押し込んだ。 凛太郎、と呼んだわたしの口を塞ぐようにキスが降ってくる。その色素の薄い瞳にまっすぐ見つめられて、まるで射抜かれたような心地がした。
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