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可愛らしいのに棘があるような、独特な世界観を持った留依さんたちのステージは、あれこれと思いを巡らせているうちに終わっていた。気づくとステージの照明は落ちていて、所々でざわめきが復活している。
「まなちゃん。次、凛太郎と悟のバンドだね」
背後から聞こえたその可愛らしい声は、聞き違えるはずもない──紛れもなく、「妖精のような」彼女のものだ。
「わたしも、ちゃんと見るのは初めてなの。あの二人、音楽の趣味は全然違うのに、なぜか相性いいんだよね」
ふふふ、と口元に手を当てて笑うその仕草ひとつ取っても、可愛い。また胸が鈍く痛むのを感じて、「そうなんですか」と目を逸らしながら答えた。
「ねぇ……さっき、見ちゃった。凛太郎って意外と大胆なんだね」
留依さんが内緒話をするみたいに声を顰めて、プラスチックのカップに残ったドリンクを飲み干した。さっき──って、まさか。思わず俯いたわたしに、「大丈夫。わたししか見てないから」と悪戯っぽい顔で言う。
「あの、すみません……こんなところで、あんな」
「ううん、いいの。それよりも」
まなちゃんが羨ましくなっちゃった。いいなぁ。ぽろっと零れるような呟きが耳に届いた瞬間、背中に冷や汗が流れる。わたしの「あの」という声は、走るようなドラムの音と眩しすぎるライトに吸い込まれてしまった。
「あっ、始まった。もう少し前行って見ない?」
留依さんに服の裾を摘まれて、言われるがまま五歩ほど前に出た。──さっきの言葉はどういう意味ですか?やっぱり留依さん、凛太郎のこと……。
悟くんのハイトーンボイスが耳に突き刺さる。鋭い目線でわたしをまっすぐ見つめて、俺のこと、今度はちゃんと見ててよ──そう言っている、気がした。
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