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事務所でだらけていた俺は、鳴り響いたスマホの着信メロディーに飛び上がった。何もないデスクの上で震えるスマホを取り上げ、深呼吸してから応答する。
「鈴村です」
『あ…、鈴村探偵事務所へはこちらで…?』
躊躇いがちな声は、若い女性のものだった。柔らかな声質と抑揚から、なんとなく清楚なお嬢様系の美人を想像して、勝手に緊張してしまう。
「あ、はい! 合ってます。…ご依頼でしょうか?」
『ええ…あの、そちらは探し物専門でいらっしゃるとか…? その…“物”以外は駄目なんでしょうか…?』
ああ、物以外は…。
「人やペットの捜索依頼はお断りしているんです。申し訳ないんですが…」
そうは言いながらも、なぜか断るのはとても残念な気がしている。美人かもしれないからとかじゃなく、会ってみたくなった。二言三言しか会話していないのに、どうしてかそう思ってしまったんだ。
自分自身を訝ったのを知ってか知らずか、電話の相手は少し慌てたように俺の言葉を遮った。
『違うんです。人でも動物でもなくて…』
そこで彼女は言い淀むように言葉を切り、またすぐに意を決したように続けた。
『私が探して欲しいのは、場所なんです』
場所?
想定外の依頼に、ほんの少し戸惑う。その僅かな躊躇は、電話の向こうにも伝わってしまったのらしい。
『駄目…ですか?』
弱々しい問いかけにも、すぐに返事ができなかった。駄目なんじゃない。できるかどうかが判らなくて即答ができないのだ。そのくせ、どうしても応じなければならない気がしている。
「…詳しくお伺いできますか」
結局、受けるかどうかの決定を先延ばしにしてしまった。俺は住所を教えてもらい、すぐに伺うと伝えて電話を切った。
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