【優秀作品選出】バケモノと呼ばれた小説家

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「さっさと観念しろや」  スキンヘッドの男が額に青筋を浮かべ、殺意のこもった目を向ける。  青年も負けじと睨み返していたが、追手の中から一人の男が前に出た。  彼は高級そうな黒のスーツの中に、トラ柄のシャツを合わせた長身痩躯。長い銀髪を後ろで一つに束ね、俳優のように整った顔立ちをしている。 「俺は『コモスパ』の幹部『新城(しんじょう)』だ。言いたいことは分かるな?」 「なんのことか分かりませんね」  オールバックの男が毅然と言い返す。  すると、新城の横で金髪の若い男が叫んだ。 「しらばっくれてんじゃねぇぞ! コラァッ!」 「抑えろユージ。あんたらがうちの商売にケチつけたことは分かってんだよ、『金翼(きんよく)』の社長『黒田(くろだ)』さんよぉ」 「ちっ……」  黒田と呼ばれたオールバックの男が舌打ちする。  金翼という会社は、近くの寂れた商店街に小さな事務所を構える金融の会社だ。主にFXや株式投資などのトレードに関する教育を、オンラインで行う事業。主にブログやSNSなどで客を捕まえ、『誰でも簡単に儲かる』といった甘い言葉で誘導し、高額の情報商材を売りつけるといった商売で荒稼ぎしている。  そして今、追いかけてきた男たちは、『コモナスーパーローン』、通称『コモスパ』という会社の社員だ。事業としては、まっとうな金融会社からは融資を断られるような、わけありの人へ高金利で金を貸すという事業を行っていた。  本来であれば、金翼とコモスパは競合というわけではなかったが、コモスパが新たに金融教育の情報商材を売り始め、金翼の売り上げが減少し始めてしまった。そこで金翼は、コモスパのマイナスになるような情報を流し、コモスパへの客の流入を防ごうとしていた。 「もちろん、俺たちの世界では日常茶飯事のこと。けどな、自分たちがやられて、はいそうですか仕方ないですね、って言えると思うか?」  新城がそう言っているうちに、部下の五人が金翼の二人へにじり寄っていく。  絶体絶命の状況だというのに、黒田はなぜか余裕の表情を浮かべていた――
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