【優秀作品選出】バケモノと呼ばれた小説家

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「――待て」  そこに金翼でもない、コモスパでもない、第三者の声が響いた。その抑揚のない冷めた声の主は、新城の後ろから現れる。その男は、黒のファー付きモッズコートに黒のスキニーといった出で立ちで、フードを深く被り正体を隠していた。二メートル近い長身で、体つきは細く見えるがどっしりとした存在感を放っている。 「……やっと来たか」  黒田がほくそ笑む。 「何者だっ!?」  新城が威圧を込めた怒声を発するが、乱入者の男はなにも言わず、彼らへと歩き始める。  金翼の二人に近づこうとしていた男たちのうち、二人が乱入者へと方向転換し駆け出す。 「この野郎! スカしてられんのも今のうちだ!」  新城の横を駆け抜け、二人同時に襲い掛かる。 「……」  乱入者は立ち止まり、襲い掛かる二人を見た。フードの奥で瞳が赤く光る。  顔面狙いで放たれたストレート。それを見切り顔を逸らすだけで回避。もう片方の拳は、鳩尾を狙って下から振り上げられたが、その手首を掴み止める。 「なっ!?」 「くっ!」  二人は一瞬硬直する。そしてその一瞬が命取り―― 「――かっ……」  乱入者は体ごと(つか)んだ腕を引き、その腹に膝蹴りを叩き込んだ。そしてそのまま相手の顔を側面から押しのけ、硬直していたもう一人の男の方へとぶつける。彼はよろけるが仲間の体重を横へと受け流し、転倒せずに済んだ―― 「――がっ!?」  前を向いたときには、側頭部に回転蹴りが炸裂していた。  二人の男を倒した乱入者が着地すると、フードが外れその相貌が(あらわ)になる。  目にかかるほど伸びた金髪に、燃えるような深紅の瞳。肌は白く整った顔立ちだが、殺し屋のような鋭い目つきで威圧感が尋常でない。  それを見たドレッドの色黒男が動揺したように叫ぶ。 「あ、あいつはっ!?」 「なんだ、知ってるのか?」 「あ、ああ……噂に聞いたことがある。最強の用心棒『笠野(かさの)龍一(りゅういち)』だ。通称『バケモノ』……」 「な、なに!? アイツが噂の……」 「なにがバケモノだっ! 寝惚けたこと言ってないで、さっさと始末しろ!」  額に青筋を浮かべ、憤怒の表情を浮かべた新城が日和(ひよ)っている部下たちへ怒鳴る。部下たちは慌てて(きびす)を返し、バケモノと呼ばれた男――龍一へと駆け出した。
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