【優秀作品選出】バケモノと呼ばれた小説家

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「お前ら! 容赦はいらねぇ!」  先頭を走るスキンヘッドの男がそう言うと、三人とも懐からナイフを出す。  龍一へ迫る三人の屈強な男たち。スキンヘッドの男、ドレッドヘアーの色黒男、金髪オールバックの男。それぞれがナイフを光らせ、一直線に迫る。  龍一は冷静に見極める。三人の足の速さはバラバラ。誰が最初に自分の攻撃範囲に到達するのか。 「はっ!」  龍一は短く息を吐き、その長い足を振り上げる。 「うぐっ!」  ブーツの爪先は見事、ドレッドヘアーの男の手首に直撃し、ナイフを落とさせる。敵は衝撃でよろめき、すぐ左斜め後ろを走っていた男へ接触。二人の動きが止まる。  龍一は地を蹴り反撃に出た。 「くっ、このおぉぉぉ!」  急接近する龍一の胸へナイフを突き出す金髪オールバック。龍一は腕を真下から入れ、ナイフを持つ敵の腕を斜め上に押しのける。ナイフは肩を掠めたものの、大きく軌道が反れた。すぐに掌底を鳩尾に叩き込み膝をつかせる。 「っ! かはっ!」 「――うおぉぉぉぉぉっ!」  獣のような雄たけびを上げ、スキンヘッドの男がナイフを振りかざしてくるが、大振りなため動きが遅い。龍一はステップを踏んで軽々と避けていく。そして、上段で薙いできた瞬間、カウンターのサマーソルト。  ――バコンッ!  小気味良い音を立て、巨体が吹き飛ぶ。  ドスンッと重量感のある音が響き、その場に静寂が訪れた。  ドレッドヘアーの男は、蹴られた手首を押さえ片膝を地につき、怯えた目で龍一を見上げている。  新城は目を見開き、必死に思考を巡らせているようだ。  そんな新城へ、黒田が微笑みかける。 「勝負あり、ですね」 「お前ら……こんなことしてタダで済むと思っているのか?」 「なに言ってんだ! 正当防衛だろうが!」  黒田の横で部下の青年が吠える。 「違う。先に仕掛けてきたのはお前らだ」 「そういうことにしておきましょう。警察にでもなんでも相談してください」  黒田があざ笑うかのように薄っすらと笑みを浮かべ言い返す。正規の組織に介入を求められないことは、闇の世界に生きる彼らが一番よく分かっていた。  新城はそれ以上なにも言い返さず、部下たちへ引き上げるよう告げると、彼らと共に去って行った。新城はすれ違いざまに龍一の顔を睨みつけたが、龍一は見向きもしなかった。 「――助かりました。報酬については、すぐに口座へ振り込みますので、今後ともよろしくお願いします」 「……ああ」  依頼主の仰々しい礼にも素っ気なく返し、その部下の羨望の眼差しを受けながら龍一は歩き去った。
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