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【4】dystopia
地下深く、最深部にあるこの研究室が集まるフロアには過去の産物が多く残っていた。天井に着いている非常口の看板ですらレトロだ。加えて、階段横にあった階層図には、地上5階までしか書かれていない。
かすかに香る薬品臭がここで研究をされていたのだという事実を証明していた。
地上部へ戻る時刻も考えるとあと2時間ほどしかいられないだろう。
時計を見ると、時間はすでに深夜だった。
***
ボクが言うには、凪葉凛がいるのはこの最下層だというがどこなのだろう。
そう思いつつも、部屋のプレートを流しながら見ていると「冷却保存室」とかかれた部屋を見つけた。コールドスリープというのだからここだろう。
扉を開けると、キーンと冷えた冷気が足元から感じる。
誰もいない部屋には青白く光る照明が透明な箱で囲まれたベッドを照らすだけだった。
透明な箱には、色白で華奢な少女が眠っていた。髪型や顔つきからもそれが 凪葉凛だということはわかり切っていた。
周りを見ても何もない。
「君が本物の凪葉凛だね」
近づいて上から見ると冷え固まった彼女がいる。ボクが言うとおりに電源を探してOFFにすると部屋中に響き渡る音量で警告放送が流れた。
<コールドスリープを終了します。解凍が終了する前に動かしたりすると人体が損壊する場合があります。その場合、致命傷となることがあります>
音量にびっくりするも、そのままにしているとケースの中では温風が流れ始め徐々に彼女を溶かしていく。何らかの薬品が自動で投与されて 徐々に彼女が動き始める。
最初はかすかに胸が動き呼吸を、徐々に動き寝返りをうつ。そして、少しずつ目を開いていく。
「...えっ?」
彼女の第一声が聞こえると、僕はどことなく安心感を感じた。このまま起きなかったらどうしようかまでも考えてしまった。
「おはよう。凪葉凛さん?」
「みなと...いいの?実験中でしょ」
彼女は僕をクローンだと思っているようだった。一体いつからここで眠っていたというのだ。
「いや、クローンの僕は別の場所にいるよ。僕は本物だよ 君を地上まで連れていくために来たんだ」
「父さんと母さんは?」
「さぁ...」
残念なことに、僕はそのことを知らない。地上で凪葉凛(クローン)の親をしていた人たちのことだろうか。
「地上にいると思うよ」
「私を置いて?」
「詳しくは後で話すよ。時間があまりないから地上へ行こう」
「うん」
彼女の手を取ってベッドから起こすと凛のおなかがぎゅぅと鳴った。
「お腹すいた...的な?」
「食事を摂ってからにしようか」
少し落ち着いたところで、僕はクローンの僕がすでにいないことや戦争が終結して地上部に建てられた階層都市について話した。
最初こそ驚いていたが、夢で見ていたといってそこまで動揺はしていないようだった。
「私とクローンは意識を同期していたの。だから、今私の中で何も聞こえないのが不思議ね」
「それは...」
「それは、君(クローン)はすでにいないんだ。この前、君に凛を探すように頼まれた。だけど、それからすぐにクローンの君は死んだ」
さっきまでとは違い、驚いて固まる彼女に僕は続けた。
「真意は知らない。だけど、僕は君を彼女と僕のクローンからそれぞれ頼まれたんだ"探して・助けて"とね」
それからは食事が終わるまで沈黙が続いた。彼女なりに何かを思っているのだろうか。だが、地上へ行くことをまずは優先させたいというと僕の袖をつかんでついてきた。
「一緒に...行こ」
そこからは、来た道を延々と戻り地上まで戻った。
途中では何かを話した気がするけど...覚えていなかった。
ただ、ただ。
落ち込む彼女の表情以外には。
***
「ただいま」
「あらぁ 遅くて心配したのよ」
出発地点に着くころには、日が沈みかけていた。オレンジ色の街灯が僕らを照らしていた。
もちろんそこには、凛の親もいる。
「凛...お帰り」
涙ぐむ凛のお母さんをよそに凛は僕から離れようとしない。
「どうしたの?」
「あの人は誰...?」
「君のお母さんだよ」
「違う。違う。違う! 誰よ!二人とも誰なのよ」
そういう彼女に僕は、どうしようもなく戸惑っていると凛の父親が僕にこういった。
「凛と二人にさせてくれないかな。私は、本当の父親と母親を知っているんだ」
「みなと お疲れさま どうだった?」
「クローンとはいえ、骸骨ばかり転がっているのは残酷だと思ったよ」
思い返すと、あの地下はとても美しい場所だと思う。だけれども、そこにいる彼ら・彼女らには何とも言えない複雑な感情を抱いている自分がいた。
「みなと君... ここまでありがとう。初めての自由よ あと、私の両親はあの人たちであってるみたい。”本当の”って言っていたのは、私が育てられた人たちのことだったの」
おどろきと戸惑いがあふれる表情の彼女だったが、
「またね。明日学校で会いましょう」
と行って両親のもとへと向かっていた。
後姿はなんとなくだけど揺らいで見えた。
その日は、僕も両親と食事を摂った後で家に帰った。次の日から学校が始まるのだ。 早めに寝よう...
[【4】dystopia 終]
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