四人の乙女

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四人の乙女

「うっ!」少女の肩を激痛(げきつう)が襲う。  背後から無数の大きな昆虫と爬虫類のような姿をした化物達が襲いかかってくきた。彼女の肩から美しい鮮血が飛び散る。  少女は肩を押さえ赤い髪をたなびかせながら全速力で走り続けた。顔だけ後ろを振り返り後方の化物達の様子を確認する。 「ヘヘヘヘ!走れ!逃げろ!逃げろ!」蟷螂(かまきり)の化け物が(かま)を振り上げて襲いかかってくる。少女の足元に鎌が振り下ろされる、足が真っ二つに切り裂かれると思ったその瞬間、少女は飛び上がり空中を舞い、宙返りをして攻撃をかわした。  少女は地面に着地と同時にジャンプして後方へ(ひるがえ)り蟷螂の頭に膝蹴りをお見舞いした。 「ギョエー!」蟷螂は奇声(きせい)を発してその場に倒れる。 続けて、カブトムシの化け物が角を前に突き出して突進してくる。少女が腕を振り下ろすと剣が現れた。  少女は少し体を屈めてから、その剣を真っ直ぐ正面に向けた。 「そんな剣など、俺の角の敵ではない!」大きな声を発しながら走ってくる。カブトムシの突進は止まらない。少女は、目の前に迫った角を微妙な角度で()らして、カブトムシの顔面に剣を突き刺した。 「ギョエー」カブトムシは大きな悲鳴をあげた。  突進して来た勢いで、少女はカブトムシと一緒に後方に押しやられる。十歩程、後退したところでカブトムシの動きは止まったかと思うとその場に倒れこんだ。  少女は倒したカブトムシの前で前かがみになり肩で息をしている。少し呼吸を調整してから顔を上げると、化け物達が少女を取り囲み襲いかかろうとタイミングを(はか)っている。その様子は、まるで椅子取りゲームで椅子を取り合う子供たちのようである。 「しつこいわね・・・・・・女の子に嫌われるわよ」少女は呼吸を整えてから、両手で剣を握りしめて化け物達を威嚇(いかく)した。  少女めがけて化け物達が飛びかかろうとした瞬間、化け物達の頭上を飛び越えて三人の新たに少女が現れた。  両手に光を宿す白銀の髪の少女、両手に拳銃を持つ青い髪の少女、中国武術で使用するトンファーを持つ黄色い髪の少女。少女達は各々の武器を目の前に構えて戦闘ポーズをとる。そこに、体勢を立て直した赤い髪の少女が加わり剣を構えた。 「遅かったわね!」赤い髪の少女は、少しだけ皮肉を込めた口調で言った。彼女が気合を込めて両腕に力を入れると長剣が輝きを増した。 「すまん!ちょっと手間取ってしまって!別の部隊は壊滅(かいめつ)させたぜ!」青い髪の少女が謝ったあと、胸を更に前に突き出して少し自慢げに呟いた。 「そっちは、三人でしょ!私は一人でこれだけ相手にしていたのよ!」周りを見回すと化け物の数は十人程度であった。 「すいませんですの。お姉さま・・・・・」黄色い髪の少女が謝った。 「・・・・・・」白銀の髪も少女は無言であった。 「とにかく、行くぜ!」青い髪の少女が勢いよく叫んだ。彼女は化け物達に向けて銃弾を発砲する。化け物達の体から血しぶきが上がる。躊躇するトカゲ、ダンゴムシ、アブラムシの化け物に、黄色い髪の少女がトンファーを使った強烈な突きを食らわせる。その動きは武術の達人ように美しいものであった。  化け物達が怖気づいているのを確認して、白銀の髪の少女が大きく横に両手を開いたかと思うとその両手に力を込めながら目の前で重ねた。少女の動作に操られるように、化け物達の体は白い光に包まれながら一箇所に集められていく。身動きが取れない様子だ。化け物達の体が一箇所に固まった事を確認してから、赤い髪の少女が剣を真一文字に横に切った。  少しの沈黙の後、化け物達の体が真っ二つに切り裂かれた。 「・・・・・・ 」赤い髪の少女の手の中から剣が姿を消した。 「お姉さま、ご主人様に危険が近づいています・・・・・」黄色い髪の少女が呟きながら、赤い髪の少女の前に駆け寄る。黄色い髪の少女は体こそ小さいのだが胸が大きい。急に止まった弾みでその胸が大きく揺れた。 「さすがに、影で・・・・・・俺たちだけで、撃退するにも限界だ・・・・・」青い髪の少女が手を開くと彼女の手の中から銃が姿を消した。疲労が激しいのか疲れきった顔をしていた。彼女は男勝りのようで言葉使い口調が少し荒かった。 「・・・・・・・『超爆激神モード』を使わないと勝てない・・・・・・」感情のこもっていない声で、白銀の髪の少女が言った。  彼女達の視線が赤い髪の少女に集中した。 「解ったわ・・・・・・、行きましょう」先ほど肩に負った傷痕を確認した。少女の肩から吹き出ていた血は止まり、傷口が塞がっている様子であった。  少女達は、息絶えた化け物達の亡骸を後にして姿を消した。  後に残された、化け物達の体は砂のように崩れたかと思うと風に飛ばされ空を舞っていった。
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