霧写しの夜

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 霧は日暮れとともにやってきた。  さまざまな気象条件が重なって発生する「粘霧(ねりきり)」は、この街でしか見ることができない。しかも、発生頻度は平均して六年に一度。  今年は八年ぶりに予報が出て、住人たちは浮き足立っていた。  どこからともなくやってきた練乳のような濃い霧が、ねっとりと路地を漂い、広場を満たす。  すべての商店は早仕舞いし、路面電車も車庫に入っている。  人々は家の中にこもり、簡素な夕食を終えて静かに待つ。  はしゃぎたがる子どもたちを親たちがなだめ、次第にみな厳かな気持ちになってゆく。
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