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第5話 お風呂
「うん。これでいいかな」
彼女にきてもらうための服を腕に抱えながら、リビングへと向かう。
くつろいでもいいとは言ったものの、そんな初めての家でくつろぐことのできる人なんて
なかなかいないだろう。
(テレビでもつけて行った方が良かったかもしれないなぁ)
ほんの少しだけ後悔してしまう。
音もあまり聞こえていないことから、ただただおとなしく待っているのだろう。
着替えを選ぶ少しの時間だったとはいえ、もう少し気を遣ってあげた方が良かったかもしれない。
「あ・・・。」
そんな不安を感じる必要なんてなかったのかもしれない。
リビングに入った私の瞳に映ったのは外を眺めて、キラキラと目を輝かせている彼女の姿だった。
(また・・・。この感じ)
彼女のその瞳から目が離せなくなっている自分に気付く。
こんなにも人に魅了されたのなんていつぶりなのだろう
その瞳を自分だけが独占したい。
そんなことを感じてしまうほどに・・・。
「あ、ごめんなさい。ついつい夜景が綺麗すぎたので、見入ってしまいました」
私の熱い視線に彼女は気づいてしまった。
こんなにもずっと1点を見続けられていれば、嫌でも気付くのだろう。
照れくさそうにしながら、歩み寄ってくる彼女
「綺麗だね。」
「へ?///」
「あ///」
彼女が近寄ってきた瞬間、ほとんど無意識にその言葉が口をついて出た。
まさかそんなことを自分から言うとは思わなかった。
そして、瞳に映る彼女を頬を赤く染めていて、明らかに照れている。
当然、そんなことを言うつもりなんてなかった私も恥ずかしくなってしまっていた。
(あ~。これ絶対私の顔も真っ赤になっているだろうなぁ)
「はい。これ。着替えね///」
私はどうにか照れを隠そうとして、持っていたパジャマを彼女に渡して
お風呂に入るように促した。
「っ!じ、じゃあ、入ってきますね///」
明らかに彼女も動揺しているのをこれ以上悟られたくないと思ったのか、
パジャマを受け取りお風呂の場所を教えると、やや速足でリビングを後にした。
ソファに座り込む
(うわぁぁぁぁぁぁあぁぁ///何言っちゃってんの!?私///)
少し冷静になった私はクッションを抱えながら悶えた。
(え、綺麗だねってなんであんなにもすらすらと出たの!?!?)
その言葉とお互いの態度はまるでカップルのようで、初対面に近い相手にするようなことではなく、思い出すだけで恥ずかしさが体中を駆け巡った。
「綺麗だね」
その言葉は多分、私の向こうに会った夜景に向けての言葉だったはずなのに
顔が熱い。
(どうしちゃったんだろう・・・私///)
自分に言われた言葉でないのは分かってはいても、心が弾むように嬉しい。
綺麗だね。なんて元カレからも言われていたはず。
それなのに、同性なのにドキドキしてしまう。
あのまま、彼女にパジャマを渡されなかったら、お風呂場に逃げられなかったら
きっと私は抱きしめていたんじゃないかって思う。
ジャー
シャワーからお湯が出てくる。
「あ、温かい」
お風呂のお湯を頭に当てながら、その温度に癒されていく。
(まさか、またこんな気持ちになるなんてね・・・///)
つい数時間前までどん底だった私の精神状態はいつの間にかこのお湯のように
温かくなっていた。
あのまま家に帰っていたら、こんな出会いもなかったんだろう。
別れを切り出されたのは確かに悲しかったけど、でも・・・。
シャンプーを手に取り、頭になじませていく
(あ///この匂い)
当然のことだけど、そのシャンプーからは彼女の匂いがした
(いい匂い・・・。それになんか安心する。)
シャンプーの匂いが鼻腔を通るたびに安心感があった。
それになんだか懐かしいようなそんな感覚さえも覚えてしまう。
その内にシャンプーの匂いは辺りに充満しているためか
彼女が側にいるようなそんな変な感じ。
(彼女の匂いに包まれて・・・。)
ジャー
シャンプーを洗い流していく。
しかし、もう染み込んでしまったのだろう。
その後、体を洗っている時も湯船に使っている時も彼女の存在を感じてしまう。
(本当に私、おかしくなっちゃったかもしれない。)
体も心もぽかぽかとしている影響なのか、それとも何か違う理由でなのか
初対面の相手にはあまり思わない感情が心の中に溢れ出して止まらない。
(私・・・。あの人の事好きになっちゃったかもしれない///)
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