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立待月の夜、チョコレートを食べる。
それは自分への褒美のつもりだった。
夜も更けた頃、私はひとり街頭を歩いていた。木々はイルミネーションで彩られ、安っぽい光をともらせている。
吐く息は白く、耳はちぎれそうなほど痛い。
仕事帰りなのか、飲みにでも行くのか、都会の雑踏は人の行き来が絶えない。
バイト帰りの深夜、女ひとりで歩いても怖くない。客引きに捕まることはあっても、私に関心を抱く人など誰もいない。コートのポケットに入れた携帯電話が鳴ることもない。
酔っ払いたちが大騒ぎしながら近づいてきたのでトートバックを抱いて避けた。中にチョコレートが眠っている。
アルバイトの先輩に渡すはずだった小さな箱――またしくじった。バレンタインのチョコレートを渡せなかったのは何度目だろうと赤信号を見ながらため息をつく。
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