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第1話 魔王復活
「最低だな、お前は。 どっか消えちまえよ!」
それが俺に向けられた勇者からの最後の言葉だった。
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俺は魔王復活まであと一週間に迫ったタイミングで、白魔道師のカナにデートを取り付けようと必死だった。今思えばこれが間違っていたのかもしれない。
「お願い! 減るものじゃないしさっ! 最後かもじゃん? 思い出残そうよ?」
俺はそう言って半ば強引に彼女にイエスを求めていた。カナは困った顔をして下をはじめとする向きながら答えた。
「あ、あの、私、そ、その日……」
「えっ? なに? よく聞こえないよ? どうせ暇でしょ?」
彼女が何かを言い掛けている所を遮ってまくし立てて回答を急がせた。時間がない、そんな焦りからカナを追い詰める。
「あ、えっと、はい……」
「ん、オーケーね? じゃあ明日デートをしよう! カナは何を食べたい?」
「えと、私は何でもぃぃです」
無理やりイエスと言わせ、すぐに話題を変えてしまう作戦は功を奏し、強引にデートをする方向で話を進めた。
「じゃあ俺は肉系と……そうだな。 カナ食べちゃおうかな、なんちって」
カナの顔色が変わった。元々色白だった顔全体は青白くなっている気がした。そしてまるで汚物を見るような目で見られた。
「あ、あの、その、やっぱり……」
彼女は再び断りかけたのですかさず、
「なに? 一度オーケーしといてダメとか言わないよね? 」
と、なんとか強気に出て強引にこぎつけようとした。
彼女、カナは顔面偏差値こそそこまでだったが、低い身長に見合わない大きな胸はまさに童貞キラーだった。わかってやっているのか、胸が強調されるようにピタッたした服を着ているので、かなりそそるものがある。
今日もニットのワンピース姿はムチムチボディを傲慢に見せつけていた。
「とにかく、明日デートにつきあってもらうから」
俺はカナにそう告げて、部屋を出て行った。
これが一週間前の出来事だ。
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さらに一週間前に話は遡る。
もともと俺たちのパーティーは勇者タツオ、黒魔導師ミカ、白魔導師カナ、白騎士ツヨシ、そして俺、暗黒騎士サポタの5人で魔王復活阻止のため一年間世界を旅してきた。
この世界は大きく3つの大陸に分かれ、巨大国家が各大陸を治めていた。魔法のみ使用を許可されている魔法都市マホダケ、科学技術のみで構成された科学都市カガノミ、そしてそれぞれが融合融合都市コラボールだ。
そして俺たちの出身であるマホダケに戻り王様へ最後の報告を行っていた。
「つまり君たちは、再び魔王の恐怖にこの世界『ディスワー』を陥れたということなのか? 百年かけて我々が各国と協力し築き上げたこの世界を、人々を!!」
実はこの世界『ディスワー』は今から百年前にも魔王により世界滅亡の危機を経験していた。そして王は続けた。
「先代が苦労して封じ込めた魔王の封印をお前たちは解かれてしまったというのか? お主たちは本当に勇者なのか?」
「大変申し訳ございません。魔導師シンユゥーの工作にまんまと嵌まってしまったのです。 彼は緻密な計画を持って臨んでいたのです。 特に最後の戦いでは何重にも巡った罠が我々にの」
勇者タツオがそう答えている最中に王様は怒鳴った。その顔は正に悪魔が乗り移ったかのような顔をしていた。目はつり上がり、鼻は大きく膨れ、口は尖っていた。うん、悪魔関係なかった。
「言い訳など不要! さて、この責任どう取るつもりだ。 勇者タツオよ。」
王様の一喝により静寂が訪れた。広い王の間は辺りの金で飾られた柱、椅子。そして真っ赤なカーペットが引かれていた。
誰も答えを言わぬまま数分が過ぎ、周りの衛兵たちの槍が我々に向いている様は耐え難い緊張感を生んでいた。
我々は三つある封印のうち二つを死守すべく準備を進めていたが、二つは簡単に封印を解かれてしまった。しかし最後の封印においては闘いは熾烈を極めた。ただ、シンユゥーはずる賢しこく、結局封印は解かれてしまったのだ。そして別れ間際奴はこう言い放った。
「これで魔王様は復活する。 愚かな人間どもに鉄槌を下してやる。 しかし安心しろ。 封印解除にはもうひとつの儀式が必要だからな。 滅亡までの二週間を楽しむがよい」
シンユゥーはそう告げるとそうそうにいなくなってしまった。俺はそのことを思い出し王様へ告げることにした。
「奴は、シンユゥーは封印解除には時間がまだあると言っていました。 その時間は二週間です」
そしてタツオも続けた。
「残りの時間修行します。 魔王が復活した場合、勇者である私以外に倒せるものはいません。 ご安心下さい」
そう勇者タツオは告げた。さすがにどう安心すればいいのわからなすぎて、少し失笑してしまった。
「おぉ、そういうことか。 では頑張りたまえ。」
王はそう告げると我々に下がるよう指示し無事帰ることができた。宿舎に戻ってからすぐに作戦会議をおこなった。
「俺達も身の振り方を考えようか、ツヨシはどうする?」
俺はしっかり者の白騎士ツヨシに話を振って様子を見ることにした。
「そうだな、まずは休息を取ることが先決だろう。 勇者は自動回復するが俺たちはそうではないからな。 特にサポタは左手が動かないのだろう?」
カナがハッとした表情でこちらを見て、罰の悪そうな顔をしたのに気がついた。
実はシンユゥーとの戦闘でいきなりカナが転けたところを狙われてしまった。白魔導師が欠けてしまうと回復要員がいなくなるので、俺は暗黒魔法の代償として左手を差し出すことで一定時間、全てのダメージをカットすることでカナを救ったのだ。
「最善の判断をしただけさ」
俺はクールに回答し、黒魔導師ミカの気を引こうと試みていた。なぜなら俺はミカが好きだからだ。
「そうね、いい判断だったわ。 けれど、魔王との決戦を前に片手は厳しいわね」
ミカはそう言うと立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。それを聞いたカナはジッと床を見つめていた。
「まあ、とにかく修行だよ、みんな。 俺は対魔王討伐へ向けた技を取得する事にするよ。 実は隠し勇者スキルがあるんだ」
そういうとタツオも部屋から出て行った。そのすぐ後をカナも着いて行き、部屋にはツヨシと俺の二人きりになってしまった。
「俺は悔いのないようにだけしておこうかな」
そう告げて俺も部屋から出て、ミカを探しに出かけることにした。
ミカは宿舎を出てすぐの噴水広場に居て、何かを待っているようだった。
「ミカ、何をしているんだい?」
「んー、ちょっとね。 サポタはこれからどうするのかしら?」
いつもはクールな彼女が珍しく俺を気にしているようだった。このチャンスを逃す訳にはいかない!
「俺はまずは、悔いの残らないようにしておきたいな」
「へぇ、例えば何があるのかしら」
「まずは左手の回復かな。 ミカに言われた通り、剣を握る手がダメになっているのはまずいからさ。 確か、呪いを解く専門のドクターがこの街にいたはずだから、そこに行こうと思う」
「ふーん、他にはないの?」
あからさまに興味ありません、的な回答にショックを受けたが傷ついている場合じゃない。ここはストレートに行くしかない。
「ミカとのデートかな」
「ふふ、ないわね」
「俺は本気だよ。 ミカが好きだ」
ついに言ってしまった。この一年間で溜めてた思いをついに伝えしてしまった。追い返せば一年前に彼女と出会ってから全てが変わった。この世界の景色、食事、睡眠の質など全てが変わった。人は恋をするとこんなにもハッピーになることを知った。
「ごめんなさい。 私、好きな人がいるの。 あなたの事はいい人だとは思うのだけれど」
やってしまった。完全にしくじった。告白のタイミングだと思ったけど違った。誰だよ好きな人って。俺じゃないのかよ!
「はは、冗談だよ、冗談!」
今にも泣き出しそうな俺に出来る唯一の自尊心を保つ最大の言葉だった。しかし、これがいけなかった。
「最低ね。 万が一にもあなたはないけれど、人として最低な事よ」
ずっと好きだった人に断られた俺はやけになった。そして話は一週間後になりカナをデートに誘ったのだった。
デート当日、俺は最低限盛り上げた。しかしデートすればするほど、ふと目に入る横顔、笑顔、どれをとってもカナはミカ以下だった。むしろ比較してしまい、せっかくチケットを取った舞台もなにも頭に残らないレベルだった。
そしてデートも終盤を迎え、高級料理を二人で食べていた。カナは飲まなかったが、俺は振られたショックを忘れるため、そしてカナの顔が酔いで少しはよく見える事を祈りながらガブガブ呑んでしまっていた。
そうこうするちにカナも可愛くも見えて来たのだった。特に私服のカナは胸が強調されていてかなりそそるものがあった。というか、これ、誘ってるでしょ!
俺はそう考え、食後の散歩中カナに言った。
「この後は、わかってるよね?」
「あ、明日早いですもんね。 帰りますね」
「はぁー? 違うだろ? ここまで来て天然はさすがにないわー、ほら、いくよ?」
強引に彼女の手を掴み、宿舎へ連れて行った。カナは少し怯えた表情をしていたが、俺は気にせず部屋へ連れ込み、早速服を脱がせ始めた。
「待ってください。 ほんとにイヤなんです」
カナは悲鳴にも似た声でそう言っているが、童貞パワーを舐めてもらっては困る。お酒のパワー、ミカに振られたダメージから俺は理性を失っていた。
「わかった、わかった、先っぽだけだから!」
そして、彼女を脱がせ終えたその時、大きな声でカナは叫んだ。
「助けて! 誰か助けて!!」
とっさの大声に俺はびっくりして、カナのほっぺたをひっぱたいた。しかし、よく効いたようで大人しくなった。
そして彼女の全身をなめ始めたそのとき、頭がグラッと大きく揺れて俺は倒れた。
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俺は頭痛と寒さで目が覚めた。目の前にはタツオ、ツヨシ、ミカが座っていた。身体を動かそうとしたが動かない。よく見ると何かでしばられているようだった。
「いつつ、ん? これどうなってるんだ?」
俺は自分の置かれた状況を理解する事が出来ずにいた。目の前に勇者タツオ、白騎士ツヨシ、黒魔導師ミカが座り、冷たい目で見下ろしていた。
身体はびしょびしょでまるで頭から水をかぶったかのようだ。ここは小屋のようだが肌が痛いように寒い。そして身体は縄で縛られ、手足も椅子に固定されていた。
「おまえ、何をしたかわかっているのか?」
頭が痛く考えがまとまらない。加えてこの寒さだ。しゃべろうにもガタガタ唇が震え上手く言葉に出来なかった。それに体もズキズキしていたのであわあわするだけだった。
しかし、彼らには待つ余裕なんてないようだ。すぐに沈黙を破ったのはタツオだった。
「何をしたかと聞いているんだ!」
?!
あの温厚なタツオが声を張るなんて信じられなかった。俺の知ってる彼は誰からも好かれ、怒りなんてものとは程遠い、仏のような男だったからだ。
「なにがだよ?」
「きさま!!」
今度は横で見ていたツヨシが大声をあげ、俺の胸ぐらを掴みグーで殴ってきた。綺麗に入ったストレートは顎に直撃し、脳みそが揺れたような気がした。そして世界が反転した。
「あんたがカナにしたことは絶対に許さないから」
ミカはそう告げるとさらに追い討ちをかけた。
「私の事好きとかいってやりたいだけだったのね。 本当断っていて良かった」
「え? ミカの事が好きだったってどういうことだ?」
今度はひっくり返っている俺をタツオが首根っこを掴んで今にも投げ飛ばされそうな状態になった。
「俺の女に手を出そうとしてたとはいい度胸だな、サポタ」
「俺の女ってなんだよ? ミカは誰のもんでもないだろ」
「気づいてなかったのかよ!!」
え、えぇーーーという驚きの顔をしたツヨシがいた。
「もはやどっちでも構わない。 この強姦野郎は生かしておかない!」
タツオがそう叫ぶとミカが割って入ってきたのだ。
「たっちゃん、止めよう。 こんなゴミ虫は放置していこう?」
ツヨシもそれに続く。
「タツオの怒りはもっともだが、こいつは勝手にひとりで死ねばいいさ」
そうやって勇者をなだめられたのでなんとか命は助かった。しかし一体俺はなにをしたんだ?強姦とは一体…
「と、とりあえず魔王討伐へ向けて一度しきり直しが必要だと思わないのか、みんな。」
俺は話を反らすために魔王の話を敢えて振ってみたが誰も反応しない。この寒空で水を浴びた状態で座っていたのでかなり体温が下がってきてしまった。これはヤバい、寒いぞ。
「最低だな、お前は。 どっか消えちまえよ! 」
勇者がそう告げると彼らはは少しずつ離れていきやがって見えなくなってしまった。
あいつら一体なんなんだ。人をゴミ呼ばわりしやがって。消えろって言って自分が移動してんじゃねーかよ、ってかくそぅ、寒くてはやばいな…
あーなんか眠くなってきたかも。
……
ハッ
少し寝てしまった気がする。こんな真冬に濡れたまま寝たらどうなってしまうのだろうか。しかし強烈な眠気が俺を襲ってきている。
くそ、何でこんなことに。俺は死んでしまうのか。
「キミニハテンセイガアルダロ」
ついに変な声が聞こえてきたようだ。恐ろしい声でささやかれたような気分だ。あぁ寒い寒い。くそぅ、毎日楽しかったんだけどな。
誰にでも優しく強いタツオ、美しいミカ。あぁ、ミカ、ミカ、ミカぁ
モウダメ…
「早く転生をしろ!」
今度ははっきり聞こえた。転生?転生ってなんだ?暗黒奥義 魔族転生のことか?確かに覚えてたけど。でもあれって。まあいいや。
「我の肉体を用いて魔族の扉を開きたまえ、最終最強奥義 魔族転生!」
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