005:焔の神子

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005:焔の神子

祠の前には賽銭箱と鈴があり、格子戸の中は異様な程暗く、外からは良く見る事が出来なかった。 私と少年は、祠の前で目を瞑り手を合わせた。 私は特には願い事はせず、少し経って目を開けると、少年はまだ手を合わせ何事かを熱心に祈っているようだった。 「何を祈ってたんだい?」 「……内緒だよ。」 「そうか、内緒か… ところで、ここはどんな神様がいらっしゃるんだい?」 「それはね……」 「瑞月!」 「あ!ほむら様!」 少年の名を呼んだのは、蝋人形のように白い肌をした少女だった。 腰のあたりまで伸びた髪の毛は、夜の闇よりも黒い。 「ありがとう、瑞月… みつけてきてくれたのだな……」 「えっ…!! それじゃあ、この人が…?」 少年にほむら様と呼ばれた少女は、表情を少しも変える事なくゆっくりと頷いた。 二人の会話は、私のことを言っているのだとわかるが、それがどういうことなのかは皆目わからなかった。 「お兄さん、こちらは、ほむら様。 神様のお使いなんだ。 あとは、ほむら様に聞いてね。 じゃあ、僕は帰るから…… お兄さん、頑張ってね!」 少年は私に微笑みかけながら、私を置いて勝手に帰ってしまった。 (本当に、自分勝手な登場人物ばかりだな。 まさか、私自身がそういう性格をしてるということではないだろうな…?) 「ようこそ、選ばれしお方…お待ちしておりました。」 私の物思いを破るかのように不意に少女の声が響いた。 「選ばれし…とは、まさか私のことですか?」 少女は黙って頷いた。 「私が誰に選ばれたというのです? 何のために選ばれたと…?」 「それは、あなたが知る必要はありません。」 「…………」 まただ… ここへ来て、こういう答えを聞かされたのは一体何度目のことだろう? 慣れたとはいえ、感じの良いものではない。 しかし、そうかといって少女相手に怒るほどのことでもないし、所詮は夢の中のことなのだ。 目が覚めれば一瞬にして消える儚い記憶…… 真剣に考えることもない。 そう考え、私は少女の次の言葉を待ってみることにした。
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