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俺はレフトで形だけ守備の体勢を取り、一応ボールが来るのに備えていた。7回の裏、とうとう一点も相手チームに取らせず、塁に一人の走者も出さず、野球部の今日の試合は終わった。
「いやアイツ、マジすげえな。完敗だわ」
挨拶をした後、相手チームの選手からそんな感想をもらうのは、今日が初めてではない。うちの学校の投手様は、あれだけ一人で投げておいて、汗の一つもかかずにこの上なく爽やかな顔をしていた。
定期テストが返ってきた。俺は点数をそっと確認し、五教科の合計点を急いで弾き出す。前回より悪くなってないことに安堵していると、ざわめきが聞こえた。
「すごーい! マジで?!」
「また500点じゃね?! うわ、やばくね?!」
この反応、今まで何回繰り返されただろうか。当の本人はどこ吹く風で謙遜して涼しい顔をしていた。
狐野宗平はすごい奴だ。
運動も出来るし勉強もできる。普通どっちかだと思うが、彼に関しては当てはまらない。
うちの野球部は彼のお陰で地区大会止まりだったのが今や全国大会出場だ。
「あいつに100点を取らすまい」とテスト作成時に息巻いている教師がいるというくらい勉強もできる。
おまけに人格も申し分ないときた。
威張ったり人を馬鹿にするようなこともなく、謙遜するが嫌味になるでもなく、男女ともに好かれているのだ。
皆がヤツをほめたたえてこう言う。
「狐野は化け物だ」
俺もそう思っていた。でも、俺は見てしまった。
「狐野は本当に化け物だ」
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