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グラスを傾けながらメニュー表を眺め、どれも美味しそうな選択肢に優柔不断なぼくは決めかねていた。
「ゆっくり決めればいいよ」
手にしていたメニュー表をテーブルの上に置いた課長に気が付くと、彼は急かすことなく穏やかにそう言った。
「すいません、どれも美味しそうで……」
気恥ずかしくなりながらとりあえず早く決めようと思いメニュー表に視線を落としているぼくの横で、課長が表情を緩めた。
「気にすることはない。どれにしようか悩むことも、楽しみの内だからね」
「はい……」
「――んん、柔らかい。すごく美味しいです」
彩り鮮やかなアンティパストとプリモ・ピアットのパスタを楽しんだ後は、お待ちかねのセコンド・ピアットが登場した。
悩んだ末に選んだディッシュは国産鴨肉のローストだ。低温で調理されているらしく肉の断面の色が美しいロゼになっている。
厚みがあるが柔らかく、臭みもない。
「悩んだ甲斐があったな」
鴨肉を味わっているぼくの姿を、課長は優しい表情をしながら眺めた。
「はい、本当に。これに、ワインがあれば最高です」
「同感だ」
赤ワインが使われているソースには、上質で似合いのワインがあればマリアージュも楽しめた。仕えてくれているギャルソンはソムリエの資格を持っていると言っていたし、遠慮せずアルコールを頼めば良かったと後悔した。
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