課長

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 こんなことを考えるなど社員失格だな、と自分でも思うのだが。  何食わぬ顔で広報部PR課である自分のオフィスに戻ると、ちらほらと残業している社員が目に入った。基本残業はしないようにしろというのが弊社の風潮だが、残業組みは少なくない。  自分のデスクに戻る途中、視線を感じてそちらに顔を向けると課長と目が合った。  彼は何か言いたげな表情をしていたが、眼鏡のフレームを指で押し上げると何も言わずにパソコンの画面に視線を戻した。  課長もとい志津野功哉(しづのいさや)は、若干二十四歳で役職持ちの男だ。  身長一六八センチのぼくよりも、十五センチ以上は背が高いように見える。  眼鏡の下の目は切れ長で、意思の強さを感じる。  普段あまり表情を崩さないが、冷たい性格というわけではない。その冷静沈着な態度は頼り甲斐があり、誰からも信頼され慕われている。  飾らない性格が仕草や表情にも表れているが、顔立ちは端正で偶に俳優がいるのかと錯覚してしまいそうになる。  そんな眉目秀麗な彼は当然の如く女性社員たちから大人気で、男性社員からも羨望の眼差しを向けられている。  更に、彼は誰もが知るところの御曹司なのだ。それも弊社グループ本社の現代表取締役の子息だ。  志津野グループといえば、国民なら皆が知っている日本を代表する企業集団だ。様々な事業分野を展開する志津野グループの中で、弊社『SHILS(シルス)』は主にヒューマンヘルスケアの分野を担っている。  とかくそんな人物がなぜ、傘下の企業で課長をしているのかは謎だ。まあその理由が何であれ、ぼくにとってはどうでも良いことなのだが。
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