課長

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 帰宅すると母が夕食の準備をして待っていてくれた。  ぼくの母は、男性の蜜花だ。  男性の蜜花の場合、番をつくると身体が変化する。どう変化するのかと言うと、簡単に言えば女性 器が出来て妊娠が可能になるのだ。 「ただいま」 「おかえり、月依。今夜は、ちゃんと帰って来たね。えらい!」  母はぼくの症状を知っている。理解もしてくれているが、度を超せば当然に叱られる。  (たま)に夜中か朝に帰宅することもあるのだが、母がうるさく怒るので最近は控えている。そのせいもあり、残業と称して事に及んでいるのだが。  スーツのジャケットを脱ぎ手洗いうがいを済ませて食事の席に着くと、父がやって来た。 「――おお、月依! おかえり!」 「ただいま……」  大体いつも両親は先に夕食を終えているのだが、暇なときはこうしてダイニングに集合する。 「なんだよ、月依。冷たい!」 「ちょっ……やめてよ、父さん。うざい」  後ろから抱きついてきた父に鬱陶しさを感じて突き放すと、父は態とらしく悲しんだ。 「月依が冷たい……」  何を隠そう、父は親バカだ。  二十歳の息子を溺愛する姿は、最早異常だ。ぼくには花蜜食の兄がいるが、彼もまたブラコンなのだ。  二種は見た目で判別できないが、大体は花蜜食人種は体格が良く見るからに権力を持ち合わせていて、蜜花人種はどこか中性的な人が多い。  とはいえ二種のどちらかだと判定結果が出てから、急に変貌を遂げる人も少なくはない。
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